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78. Florianopolis, Brazil
「な?折角だし、どうよ?」
「英語ならまだしも、ポルトガル語でしょ?マリンスポーツなら沖縄でもいいじゃん。」
「日本の裏側だぞ、なかなか行くこともないだろ。
ちょうど、新婚旅行にピッタシじぇねえ?」
「お友達の別荘って・・・そこ、治安とか大丈夫なの?」
「悪いようには言ってなかったぜ、むしろ、世界中で一番お勧めの場所だってさ。
気が進まねえか?」
新婚旅行の行き先候補として出てきたのが、聞いたこともないブラジルのどこか。
南米ではかなり有名な観光地らしいけど、だからと言って行きたくなるもんでもなく、「なんでそんな所へ?」って感じが拭えない。
ハワイでさえ行ったことないんだから・・・私。
なんでも、ブラジル国籍の教授から、「別荘を使ってくれ。」と何度も誘われているらしい。
「日本人はブラジルを知らなすぎて、悲しいんだってさ。
マリンスポーツあり、おいしいフードあり、きれいな水と空気、大自然もありで、ハワイなんぞ比べ物にならないから行ってこいって。
あんだけ言うんだから嘘でもねえだろ。」
「で、鵜呑みにして西門さんは乗り気なんだ?」
「行ったことねえし、面白そうじゃん。
まだ身軽だし・・・今のうちに、なっ。」
「でもさ、パンフレットは無い、ガイドさんもいないんでしょ?
下調べはどうすんのよ?“地球の歩き方“とかも無さそうじゃん。」
「泊まる所があれば、何とかなるもんだって。」
「はぁ~。」
てなわけで、日本から丸一日かけてやって来たのがここ、florianopolisという島と大陸の一部からなる都市で、州都だけあって、文明もしっかりとした立派な場所だった。
私の頭の中では、もうちょっとジャングルっぽいイメージだったから、想像と実像のギャップに目をみはる。
国際空港を抱える観光都市。
教育・経済とも発展した、“ブラジルで住みたい都市No.1”に挙がるらしい。
さすが、南半球、2月だというのにTシャツ一枚で過ごせて快適。
そして、サン・パウロなどの大都市と違い、治安はすこぶる良く、海外にいる緊張感はどこかへ消えた。
有名なサーフィンのチャンピョンシップ・ツアー・トーナメントが行われる程、波に定評あるビーチがたくさんあり、若いサーファー達がウヨウヨいて、ヨーロッパやアメリカからの白人男がボード片手に歩く姿はめずらしくもない。
日本人はすごく少ないけれども、バカンス中の若い観光客の多さにビックリした。
ジェット・スキー、ウィンド・サーフィン、パラセール、ダイビング等なんでもござれ。
ツアーデスク案内は至る所にあり、心の赴くまま、身体一つで申し込める気軽さが、この都市の観光天国度合いを物語っている。
こんなに整備された観光島だと思わなかったし、気付けば早くも4日目を迎えていて、時間が経つのがあまりに早く、驚いてしまう。
「西門さん、結構、焼けたね。」
西門さんは全身日焼けして、特に鼻の頭と肩は少し赤らんでいる。
「初日から日差し、きつかったもんなあ・・・ったく、やっべえよな。
アフターローション、肩に塗ってくれるか?」
「もちろん、べったり塗ったげるよ。」
私は口元を緩ませながら、カバンの中から男性用ローションを取り出し、ブチュリと中身を押し出して、熱を持ったその大きな肩に優しく触れた。
「うわっ、もう皮がめくれてる~、痛そ。」
「っ・・・冷て~。」
「ゴメン。ゴメン。
西門さん、気持ちはわかるけど、歳も考えなよ。
シミになるよ!シ・ミ!
ちゃんと日焼け止め塗れば良かったよね、西門さんも。」
本人も後悔してるらしく、苦々しそうに口を一文字にしている。
角張った肩に茶色がかった液体を塗りこむと、キャラメルみたいに甘い匂いが広がって、こういう香りは旅行の醍醐味だと思う。
「はい、完了!」
カバンに手を伸ばしかけた所で、右手首を掴まれて、その指を西門さんの鼻先へもって行かれた。
「ここにも、ついでに・・・優しくね~。」
指先に残るローションを自分の鼻のテッペンにこすりつける西門さんは、ねだるように甘えた声色と瞳で楽しんでる様子。
「つくし、美味しそうな匂いさせて。」
「私じゃなくて、ローションの。」
西門さんは手を離し、今度は両手を私の背中へ回して、軽く抱きしめてきた。
「サンキュー・・・。」
すっぽりと腕の中に包まれると、じんわり胸に広がってくる“幸せ”。
そう呼べるひと時を、ここflorianopolisにきてから、屋内・屋外に関係なく、何度も感じさせてもらえてる。
日本から遠く離れた開放的な空気のお陰かな。
目の前には西門さんの鎖骨があって、すぐにも触れることができる距離。
包まれる“幸せ”、そして、特別に、私だけに許された、彼に触れることが出来る自由を“幸せ”と呼ばず、なんて表現したらいいのか。
キャラメルとコロンが体温で混ざり合い、なんとも甘く魅惑的な香りにラップされ、逃げる思考も動きも封じられる。
さらに、優しく頭のてっぺんにキスを落とされ、もう一度、ギュット抱きしめられたら、もう、コロリと催眠術にかかる兎かひよこになってしまう。
背中に置かれた掌が上下にさすり始め、腰へ、お尻へ伸びていき、さする力が意味を持ち始める。
西門さんがまたその気になっているのに気付いた。
「こんなことばっかして、キリねえな。
いっそ、ここに別荘でも買っちまおうか?」
「・・・もう、冗談よして。」
頬から首筋にキスを始める西門さん。
「いいじゃん、1回だけなら・・・carnivalは逃げねえよ。」
「お腹もすいてるし・・・お化粧も、取れちゃう。」
「そんなの直さなくていいって。」
到着の次の日に、一日中、日差しを浴びて、既に皮がめくれ、ホントご愁傷様の西門さん。
まず出かけたのは、小さな島へのボート・トリップだった。
朝から夕暮れまでそこで過ごした。
白いビーチと透明な海水。
どこからか聞こえてくるサンバのリズムと気持ちよいそよ風。
片手をあげるだけで、飲み物は何でも運んでもらえ、余計な干渉はない。
それだけで、きれいに気持ちが入れ替わり、バカンス気分になるもんだ。
お腹がすけば、コテージで軽食を食べ、シュノーケリングを少し楽しんだ後、木陰のハンモックに揺られ眠った。
結婚式から新婚旅行をずらした理由は、西門さんが忙しかったせいでもあり、ようやく、はるばるやって来て、まずはスイッチが必要だと早速現地でツアーを申し込み、目論見どおり、上着を脱ぎ捨て、とたんに日本を忘れた。
その結果がこの日焼け。
その次の日も私達は出かけた。
砂丘でサーフィンみたいに遊ぶサンド・ボード体験だ。
Florianopolisは海・川・森林・砂丘があり、自然を生かしたいろんなアクティビティーがいっぱいの巨大アミューズメント・パークみたいで、西門さんと私は、子供のように目を輝かせツアーを選んだ。
「サンド・ボードってやったことある?」
「無いけど、それでもいいぜ。」
「脚、平気かな?」
「体験程度なら、テキトーにやるから・・・つっても、つくしより上手く滑れるだろうし、心配無用。」
日焼けした西門さんがニヤリと口角を上げると、白い歯がこぼれ出る。
一瞬、ガムのCMのように爽やかな余韻を残すから、いまだにドキドキさせられ、照れ隠しに、あわててツアーのアクティビティー・リストを覗き込んだ。
「///・・ねえ、西門さん・・・サンド・ボードって・・・“雪の代わりに砂を、スキー・ウエアの代わりにビキニを、スノウ・ボードに代わるレジャー”って書いてるよ。
それなら、多少出来ると思うんだけど。」
「じゃあ、決まり。申し込も。」
白いポロにモス・グリーンの短パン姿の西門さんは、鼻歌でも出そうな調子で、私の肩に手を回し、早速、デスクに座るスマイル・ビューティーな女の人に声をかけた。
シャトル・ジープが砂丘に差し掛かると、景色は砂色の世界。
視界の中、ショッキング・グリーンの派手なボードが、シャープなラインを描きながら、サーッと滑り落ちていくのが目に入る。
バランス感覚バッチシ上手で、思わず目で追った・・・あんなに滑れたら、気持ち良いだろうな。
スキー場でも気持ちよく滑る人がたくさんいた・・・スノボ感覚なら、何とかなるか。
到着すると、小学生くらいの子供からおばあちゃんまで、ボードに乗って練習する人がいっぱいでワクワクし始めた。
簡単なレクチャーの後、ボードを借り、滑り始める。
西門さんはサーフィンさえご無沙汰なのに、すぐに乗りこなしていて、かつて致命的な重傷を負った人かと目が点になったよ。
滑れるようになると、楽しくなってくるもの。
けれど、滑り落ちると、また上まで歩いて戻らなければならず、それが体力を奪っていくのが難点だった。
「・・っふー、よいしょっ・・・」
「ほい、つくし、ボード貸せ。」
一歩前から振り返り、手を差し出してくれる西門さん。
「え?これくらい、持てるよ。」
「いいから!」
「いいってば!」
「奥さん孝行させろよ!・・・今のうちに、恩売っとく。」
真面目な表情から、一気に顔をニンマリさせて、奪うようにボードを取り上げた。
それから、振り返って、ニヤリと口角をあげる西門さん。
「・・っ!・・・じゃあ、甘えさせてもらっとくよ。」
お陰で、思っていた以上に身軽になって、自然と元気も回復する。
ボードを小脇に抱えた西門さんが前を歩き、私は離れないように背中を見つめて歩いた。
格好よくて、その上、さりげなく優しい。
ふと、そんな人と結ばれた自分の幸運に感謝せずにいられなかった。
ワンピの肩紐をずらそうとする手を掴んで止めた。
「ねえ、今日こそ、この旅行の最大イベントでしょ?なら、行かなきゃね?」
「っちぇ・・・じゃ、帰ってから続きな。疲れて眠りこけるなよ!」
新婚旅行をこの時期にした別の理由が、ここで開かれるcarnivalのことを耳にしたから。
この底抜けに明るいラテンの人々が集い、外からの観光客と相まって、煌びやかなパレードに酔い、食べて・飲んで・歌い・踊り・戯れるcarnivalは“生の喜び”であふれ、最高にエネルギッシュで、ゾクゾクするくらい楽しいらしい。
まだ外は夕暮れにもなっていない。
けれども、パレードの見物客で既に人が通りいっぱい溢れていた。
レストラン、ビーチ、ホール、レゲエ・バー、ストリート、至る場所で開かれるらしいパーティー。
流れで良さそうなパーティーに潜りこもうと西門さんは言っている。
まずは、腹ごしらえとブラジル料理レストランへ入った。
頼んだのは名物のシュラスコ(churrasco)で、鉄の串に肉を突き刺し、それをテーブルで好きなだけ削いでくれるというもの。
それも、色んな種類があるらしく、次々持ってこられて愛想よくしてると、すぐにお腹いっぱいになってきた。
「つくし、今日はよく食うな。」
「ううん、お腹いっぱいなのよ、もう限界。」
すると、また新たな串刺しがテーブルにやってきた。
「Nao Obrigado」
西門さんが言うと、ニコリと微笑みその店の人は立ち去った。
「・・・No thank you って言った?」
「そう・・・メイン・イベントの日に具合悪くなるのは避けたいだろ?」
「うん。ありがと。」
外に出ると、空は暗くなり、ビーチの方にも明かりが灯されていた。
パレードの一行が見える。
大音響を響かせながら、テレビで見たことあるリオのカーニバルのように、華やかでセクシーな衣装の女性が踊り歩いて行く。
大きなフロートは、チームごとにデザインされて、垣間見るだけでも楽しく、さすがサッカー大国、巨大なサッカー・ボールとゴールを乗せたのもあった。
熱気のせいか、ほろ酔いのせいか、気のせいかも知れないけれど、ちらちら男の人の視線を感じる。
なんだか怖くて、西門さんの腕にしがみつきながら歩いた。
ビーチに向かって歩いて行くと、通りにはアルゼンチン・タンゴを踊る美しいカップルのパフォーマーがいたり、全身真っ白に塗りたくり、ビクとも動かない大道芸人がいたり、刺激的な光景が続く。
私達は、立ち止まり、輪の中に加わり鑑賞を楽しんだ。
すっかり、祭りの楽しいムードに溶け込んでいる。
歩き出すと、向こうからマッチョなタンクトップ姿の男の人が、熱い眼差しでこちらを見ているのに気付いて、西門さんの腕に頬をピタリとくっつけてみた。
なのに、そいつからすれ違いざまにウインクされて、ビックリ。
「ちょっと、あれ、見た?」
「ああ・・・俺にくっついとけ。」
案外、平気そうな西門さんの横顔を見つめながら、私はしがみつく手に力をこめる。
ビーチが近づくと、アップビートな音楽が大きく聞こえ、それと共に、露骨に男の人の視線を感じ出す。
それも、7人・9人・10人くらい・・・たくさんだ。
それだけじゃなかった。
「Hi・・・chu !」
「Como vai ?」
掌をチラチラさせ、投げキスしてくる男の人もあらわれて、初めて、ヤバイ場所かもと不安がよぎる。
パーティー会場と思われる場所で、その光景が目に飛び込むなり、思わずへたり込みそうになった。
どこもかしこも上半身裸の男がたくさん、裸祭りのように異様な興奮状態でひしめき合っており、湯気でも上がりそうに会場は熱気ムンムン。
みんな、男・・・男ばっかり。
色目を送っていたのは、私ではなく西門さん目当てだったんだ。
ここはゲイ・カーニバルなんだ。
背の高い三人組みの白人男が現れ、西門さんに親しげに話しかけ、しきりに誘っている様子。
充満しているタバコか何かの燃える匂いとお酒の匂い、陽気な笑顔と掛け声、足元から突き上げてくるベースの音に飲み込まれそう。
そのうち、私の腕がするりと解かれ、間に潜り込んできた男達に西門さんが拉致されるように連れて行かれる。
西門さんの言う言葉なんか、聞く耳持たない男達は獲物を前に、ハイ・テンションのまま、どんどん中央集団へ入っていく。
「ちょっと待ってよ!!ちょっと!!!待ちなさいよ!!!」
私は日本語でつっかかった。
つかつかと歩み寄り、見上げるような男の人の腕を引く。
「返して、私の大事な人を!」
すると、「もう遅いから、ホテルに帰りなさい、子猫ちゃん」みたいな英語が聞こえ、むかついた。
まるで、子供扱いされてるじゃん?
私は西門さんの腕を引きむしり取ると、その隙間に割り込む。
「私達は結婚してるんですから、愛を誓い合った夫婦なの!
西門さんはあんた達なんかになびかないの!私にラブラブなんだからねっ!!
汚らしい手を離しなさいよ!
もう、西門さんから離れてって言ってるでしょ!
どブス野朗!」
そして、私は背伸びをし、力強く西門さんの両頬をつかみ、唇へとキスをした。
唇から離れるやいなや、腕を引っつかんだまま猛ダッシュ。
西門さんの様子を見る暇も無く、思い切り走った。
聞こえてくる音楽が小さくなった所で、走るのを止めると、ゼーゼー息が苦しい。
お酒を飲んだ後だし、結構、息がきれる。
「アッハハハ・・ククっーー、面白れ~。
日本語だからって、すごいこと言ってなかった?つくしちゃん。」
「はあ?////もう~、必死だったんだから。」
「ふっ・・・どブス野朗ね~ハハハッ。」
「もう~、笑うな。」
笑いながら私を抱き寄せて、耳元で囁く西門さん。
「マジでラブラブ中だし。」
顔を離し、上から見下ろす西門さんの瞳とぶつかる。
黒いサラ髪の奥から、涼し気に見つめる瞳の奥に、誰もが虜にされる妖艶な色が浮かび、私はそれを逃さぬように、一身に受け止める。
不意に角度がかわると、外灯に照らされて、その瞳から銀色の星屑がこぼれたような錯覚を覚え、思わず目が眩んだ。
「つくし・・・愛してる。」
「うん。」
そっと唇を乗せられる。
柔らかい唇の感触に神経を研ぎ澄ませながら、目を瞑った。
遠くから聞こえる絶え間ない、ドン・ドン・ドンというリズム。
まるで、耳元に打ち寄せているみたいな波の音。
そして、オレンジ色にロマンチックにライトアップされたビーチ。
「踊ろうか?」
自然と体が左右に揺れて、わずかばかりのステップを踏み出した。
砂がサンダルの中に入ってくる。
けれども、不快さは無かった。
「つくし、明日は何して過ごしたい?」
「う~んとね、お土産かな。」
「買い物かよ。」
「“FLORIPA”って書いてるTシャツ、いっぱい買って帰ろうよ。」
小さく微笑み返す西門さん。
「それに、まだ、アクティビティーも残ってるし。」
私は笑顔で見上げた。
「ここが気に入ったみたいだな。」
「うん、意外だったけど・・・別荘貸してくれた教授さんに感謝しなきゃ。」
「おう、良かった。一生、文句言われずに済むと思うと、俺も一安心だわ。」
「こうやって、静かな二人だけのカーニバルも素敵・・・思い出になるね。」
「このままエンドレスに続くかもな、つくしと一緒なら。」
西門さんはステップを止めて、私の肩を抱いた。
「バーでも行くか?喉乾いたろ?」
「うん。」
スーッ・スーッ・スーッ・・・二人同時に砂の上を歩き始める。
すると、今度はビーチ・バーから流れてくるボサノバの音が大きく聞こえ始めた。
どうやら、ノーマルなcarnival partyみたい。
サヤサヤと囁くような優しい音色。
エキゾチックで魅力的な音楽がバーの中から漏れでていた。
西門さんといると、何もかもが楽しいし、ワクワクする。
次から次へと、向こうから“幸せ”が訪れてくれるような気分だ。
“幸せ”真っ只中、地上のパラダイスといわれる場所で濃密な時が流れている。
『何を飲もうかな。』
手をギュっと繋いでそんな事を考えた。
どうせ、何を飲んでも美味しいに決まってる・・・天国みたいな場所だもん。
つづく
(次回は最終回)
Ref : Wikipedia, the free encyclopedia
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