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68.
パンジーの花咲く花壇のすぐ側にて、いきなりのキスを受けた後、ずっと胸の奥がドキドキしっぱなしで、地上から1センチ浮いた所を踏んでるような、不確かでフワンとした感覚が付きまとった。
内輪のパーティー会場では、新郎の美作さんと楽しそうに何を話していたのだろう。
立ち上がって、今度は道明寺と一緒になって豪快に笑っていた。
そこへ類も加わって、男同士の会話が弾んでいるようだった。
私の視線に気付いていながら、素知らぬ振りしてた西門さん。
そんな横顔を盗み見ばかりの日も暮れて、パーティーは無事終了。
それから、男達は別の場所へ、飲みに繰り出したようだ。
部屋に戻りベッドに潜り込むと、あっという間に空が白み始める。
ピイーヨ ピヨ・・・鳥のさえずりが、耳に気持ちよいはずの翌朝がやってきた。
はあ~寝不足・・・。
西門さんがどアップでチラチラ瞼に現れて、実際、すぐ側にいるかのようにリアルに動いてた。
香りまで漂ってくるから、夢か現実の区別もつかず、興奮状態が続いていたと思う。
この牧野つくし、どこでも眠れる女と言われ続け早30年!
けれども、ここへきて、しかも高級なマットレスがあるにもかかわらず、明け方まで悶々と眠れずとはどうした事だろう。
チェックアウトの時刻は気にせずと言われても、明日は私も仕事がある。
結局、私は桜子の車に乗せてもらい帰路につくことに決めた。
その夜のこと。
ピンポーン・・ピンポーン・・・ピンポーン・・・・・♪
既にベットで眠りの世界を気持ちよく浮遊中、聞こえてくるチャイムの音。
どこか遠くでチャイムが鳴っている?何度も鳴ってるよなあ。
ピンポーン・・ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・・♪
あれ?・・・これって、うち?
ようやく覚醒し、その音がハッキリ耳に飛び込んでくる。
昨夜の寝不足のせいで、ベッドから起き出すのが億劫だ。
仕方なく、ドアまで行って「どちら様ですか?」と寝ぼけたまま返事を返す。
「俺・・・。」
「・・・。」
おれ?その声は・・・ひゃあ~。
「とにかく、開けて。」
我が身は着古したコットンのパジャマにスッピン。
ヤバイと思いつつも、何故だか手が勝手に鍵を解除していた。
現れたのは、何年ぶりかで見る黒皮ジャン姿の西門さんで、玄関の中へ入ってくると、皮ジャンから冷たい木の香りが漂ってきた。
「お前、寝てた?どうりで中が暗いと思ったわ。
でも、まだ9時だぜ。」
「えっ?」
西門さんの革ジャン姿が懐かしくて、夢の続きに居るみたいだった。
「何度もメールしたんだぜ、一向に出やしないから見に来た。
・・・ククッ、爆睡してただけか?
お前、眠っちまったら起きねえとこ、あいかわらずだな。」
「え?・・っそう?」
「寝ぼけてる?
しっかし、9時に寝るとは子供みたいな奴だよな。」
表情はからかうように優しげで、私を見つめたまま一歩づつ近づいてきた。
大きな両手で私の両頬を挟むと、西門さんは少し前屈みに顔を近づけた。
目・鼻・口、あいかわらずバランスのとれた超端正な顔。
なめらかな肌は特別のお手入れをしているのか、吹き出物も見当たらない。
「起きろ~、牧野!俺、わかるよな?」
頬に当たる男の手の感触にピクリとして、頭の中がちゃんと起動する。
「ちょ・ちょっと///・・・西門さんに決まってるじゃない。
誰のせいでこんな早い時間に寝ることになったと思ってんのよ。」
「俺のせいって言いたいわけね?」
「そ・そうだわよ。
西門さんがキスなんかするから、ずっとチラチラ、チラチラ・・・ったく。」
「・・・ッフ。」
ニヤリと口角をあげて真っ直ぐ見下ろされると、涼し気な目元から一瞬、銀色の煌きが瞬いて見えた。
そして、シャラリと星屑のように零れ落ちる。
いつかもここで見たことがあるアレだ。
瞬きのほんの合間のこと、白いメタリックな光線が私の心をぐいぐい引き寄せ、カラクリのわからないマジックのようにすっかり惑わされて、魂を吸い寄せられるように、心から魅せられてしまう、そして、呆けたように何も言えなくなってしまう瞬間なのだ。
再び、端正な顔が近づいてくる。
唇が触れるや否や、西門さんの両手は私の薄いパジャマの背中部分へ回されて、シカと掌を広げ、力いっぱい抱きしめられた。
キスはどんどん深くなり、食べられてしまうような雄々しさを帯びてくる。
「ヤベ・・・牧野・・・このままいい?」
大好きな人の瞳の奥から懇願されて、NOなんて言えるはずも無い。
コクリと頷くと、手を取り、ベッドの方へ引っ張って、皮ジャンとロンTを脱ぐい去り、しなやかな胸の筋肉を見せつけられた。
「布団、温ったけえ・・・牧野の匂いもする。」
言うやいなや、今日の疲れを溶かしていくように、鼻先を何度も何度も擦り合わせ、ゆっくり距離が縮まっていくのを感じる、体温がわずかに上向く。
あの懐かしい、植物系のバニラがかった香りが一層厚く私の身体を包み込む。
視線と視線はぶつかり合ったまま、15センチ先の距離を行き来しているけれども、薄暗いベッドでは、西門さんの瞳の中はのぞけない。
ただ、涼しげな瞳の中に私を求める熱い炎が灯っているのが感じられた。
温度が上昇し融解点に達すると、待っていたかのように西門さんは更にその先へと動き始めた。
唇同士が触れ合って、小鼻が交差する。
その時、囁くような西門さんの声が聞こえた。
「牧野・・・結婚しような。」
さらりと言われたプロポーズ。
しかも、どんな表情で言ったのかハッキリ見えない状況だ。
「ズルイよ・・・こんなところで、そんな簡単にあっさりと。」
西門さんは私に覆い被さったまま、少し顔を離すと言葉を続けた。
「・・・ごめん。
そうかもしれないけど、やっぱり今、けじめ付けさせて。
牧野と一生を共にしたい。
なっ、結婚しよう、いいだろ?」
「・・・。」
「返事は?」
「うん・・・いいよ。」
西門さんがそのつもりでいることは、なんとなくであるけど想像していた私には、プロポーズを不思議なほど素直に受け止めることができた。
契約書のサインの場所から心得ているかのように、全て想定どおりサラサラ答える自分の言葉の方が新鮮だった。
「ヤッタ!・・・これで、今晩は思い切り出来る。」
「何よそれ。」
西門さんは私の髪を撫で付けながら、口角から耳たぶに渡り、飛び石を跳ねるようなキスを幾度かして、そのまま私のうなじへと鼻先を埋めた。
つづく
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