[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
10.
「何て言った?」
「今の道明寺が好きだってちゃんと思えない。」
「 ・・・・・・。 」
私たちは、ベッドから出てソファーへ場所を変え、向かい合って座った。
「別れたいってことか・・・?」
「 ・・・ 一度、白紙に戻して考えたいの。
英徳を卒業するまで、道明寺のことを何度も何度も思い出して待ってた。
うさぎ屋で、“守ってやりたいから家を出る”って言ってくれた真っ直ぐな瞳。
美作さん家の東屋で、私を軽々と抱えて逃げ道を探す大人っぽい顔、
それに、滋さんの島で夕日に照らされるあんたの瞳や手のぬくもり、それから・・・あん時のキスとかも。
忘れられっこない大切な想い出だよ。
寂しくなったら、想い出を引っ張り出して、つなぎ合わせて夢見てたの。
私って、やっぱ、単純なんだよね・・・5年も経てば変わることも気付かないで、高校生の道明寺のことばっかり想い描いて。
また会いたいって、また熱い瞳で見つめて欲しいってずっと思ってた。
だから、英徳卒業式の一週間後会った時、本当にびっくりしたよ。
すっかり仕事人間に変わっちゃっててさ。
やる事なすこと、すっかり落ち着いちゃって。
記憶にある道明寺は高校生の頃だけでしょ。
思い切り戸惑うでしょ・・・普通。
全然馬鹿もしないし、仕事の話ばっかりだよ?
それで、そのまま笑顔だけ残して、NYへ帰ってしまって、私がどれだけ不安な気持ちで残されたか分かる?
昔のように全てを信じて待てたら、どんなによかったか・・・。
道明寺のこと嫌いになった訳じゃないの。
ただ、どこが好きなのか、一緒にいても何を話していいか、この先、どうしていいのか見えてこないの。
私たち、やっぱり離れている時間が長すぎたんだよ・・・。
道明寺は、私のことちっとも変ってないって思ってるの?」
「牧野、寝ぼけてるのか? 牧野は、牧野だろ。それに、俺はここに居る。
お前、久しぶりにあったから、俺の成長にびっくりしてるだけだろ?」
「ちがう! 道明寺は、変ったよ。」
「そんな寝ぼけたこと聞けるか!俺が、NYに来たのは何の為かわかっているよな?
どんなにつらくても歯を喰いしばって頑張ってこられたのも、牧野がいたからだ。約束したろ?」
「昔の道明寺なら、仕事より何より私を選んでくれてたはずじゃない!
昨日だって、仕事、休んでくれなかったでしょ・・・。」
「勝手に仕事休むな!とか言うの、お前の専売特許だったじゃねえか・・・。
わかった、今日は仕事を休んで一緒に過ごそう。
会えなかった時間を埋めようぜ。」
「違う!本当に休んで欲しくて言ってるわけじゃ無い!あんたは、変わったって言いたいの!」
「少しは変わっても、当たり前だろうが・・・。俺はもうチンタラした学生じゃねえ。
瞬時にビリオン単位を動かすこともあるんだぜ。
牧野、他に好きなやつでもできたのか?」
大きく首を何度も振った。
「俺のことが嫌いになったのか?なら、そうはっきり言え! 直せるものなら、直す努力もする!」
「だから、嫌いになったわけじゃないって言ってるでしょうが!
嫌いなところも、直して欲しいところも浮かばないのが問題なの。
・・・今の道明寺が、すごく遠く感じるだけ。
現に私達の思いが、こんなにすれ違ってるでしょ?
道明寺も変ったけど、私もどこか変ってしまった・・・時間がそうさせたんだよ。
それが、私達の現実なんだよ!」
「そんなんで納得できるわけねえだろ!」
「私、バカでわがままなあんたなんかサイテーだと思ってた。
なのに、いつの間にか好きになってて、一緒に居たいって思ってた。
こんな話、ゆっくり二人でしたことなかったよね?」
「聞きてぇな・・・。」
「覚えてる? あんたが走って追いかけてきたこと。
亜門と一緒に乗り込んだバスを、走って追いかけてきたこと!
馬鹿なあんたは国家権力まで使って、なり振り構わずがむしゃらに探してくれたでしょ?
あの時、もう少しで私の心はどこかに行っちゃうところだったのに、あんたが必死で掴んで離さないでいてくれたから、自分に嘘つかずに済んだの。
ホントは、すごくすごく感動したんだ。
すごくすごく、道明寺が愛しいって思えたんだ。
こんなにすごい男(ヒト)に慕われてるのか・・・って。
本当に嬉しくて、やっぱり、道明寺しかいないって思った。
初めて自分以外の誰かを幸せにしてあげたいって思ったもん。」
「いい話じゃねえか・・・。」
「でも、もうそんな姿、道明寺には似合わないね。
今の道明寺に同じこと要求するほうが馬鹿げてるんだけど。
知らないうちに立派な大人になっちゃって、あんな道明寺はどこにも居ないでしょ?」
「だったら、もう一度追いかけてやるぜ。
思い出させてやる。一からでも何でもやってやるぜ。
NYへ来い!俺のところへ来い、なっ?
一緒に暮らそう。屋敷が嫌なら、アパートに移ってもいいぜ。
今の俺をたっぷり見てくれ!」
「そんな簡単に言わないでよ!
私も、もう高校生じゃないよ。私も大人になったの・・・。
仕事も楽しくなってきたし、もっともっと勉強したいと思ってる。
道明寺は、今の私をどこまで知ってるって言える?今の私のどこが好きなの?」
「俺は、牧野の全てが好きだ。天と地がひっくり返ったって、この気持ちが変わるわけないにきまってる。」
「道明寺・・・。私には、そういう風に思えないよ・・・。」
「俺は、理解できないぞ!お前とは、別れない!
だって、そうだろ、どれだけ牧野との未来を待ったと思ってるんだ!
そんなことで、簡単にあきらめられっかよ!仕事や勉強なら、NYでもできるだろうが・・・。」
道明寺の瞳は、怒りで真っ赤に燃えるようだった。匂いたつように若い男の熱い血がドクドク流れて、周りの温度を上昇させている。
熱い血潮は勢いを失うことなく、私の腕を掴み引き寄せ、乱暴にベッドへ押し倒した。
パジャマの上着を一気に顎までたくし上げ、空いた手で腰を強く引き寄せたまま、いきなり私の胸を舌先で愛撫し始めた。
「道明寺、止めて!!ねえ、道明寺!!」
力強く手首をつかまれ、嵐のようなキスで言葉を塞ぐ。
乱暴で性急なキス・・・、本当は優しいキスをする男なのに、怒りで我を忘れている。
私は、右膝をたてて、両腕を思い切り突っ張って、力一杯抵抗して叫んだ。
「道明寺!お願い、止めて!!」
突然、ピタリと動きを止める道明寺。
炎を吹き消されたマッチのように、その場を動くことが出来ないでいる。
何もかもが止まったような居心地悪い静けさの後、何も言わず部屋からあいつは出て行った。
つづく
コメント