[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
9.
時差ボケで目覚めてしまった滋さんと私は、さわやかなNYの秋晴れの下、二人で散歩をしながら、
今日はMET(メトロポリタン美術館)とMOMA(ニューヨーク近代美術館)へ行くことに決めた。
戻ってくると、道明寺は既に仕事へ出かけた後で、伝言だとメモが渡される。
夕食はマンハッタンにあるロブスター専門レストランに予約を入れておくから出て来いというものだった。
忙しい道明寺の生活パターンは、私が来ても変らない様子。
こりゃ、早く時差ぼけをなんとかしないと何も解決せずに滞在期間が終わってしまう・・・。
今晩こそ、ちゃんと話し合おうと気合を入れた。
METとMOMAは、観光客だらけで、アメリカ南西部から来た体格の良い御上り様ご一行や異様に背の高い北欧系や鼻梁が細いフランス系の顔が目立って多かったように思う。
異なる言語が飛び交い、さすが世界的有名な美術館に来ているのだと興奮した私は、一点でも多く目に焼き付けておこうと欲張って鑑賞した。
せっかくだからと観まくったけれども、実は収蔵品のほんの一部しか観れていないという状況で、想像を超える量と質には舌を巻くばかりだった。
「ふう~、滋さん、疲れたよ~。頑張って観たから、目がショボショボしてきた・・・。」
「さすがの滋ちゃんでも、一日に2つの美術館はきついよ・・・。つくしが丁寧に観るから、付いていくのも大変だったし、私もへとへとだよ~。」
朝から夕方まで、ずっと美術館にいた私達のエネルギーは明らかに底をついていた。
滋さんも私も今朝は5時まえから目がパッチリ開いて、一日を始めている・・・。
この状況で、あと約3時間マンハッタンで時間をつぶすのは、我慢大会の種目になるぞ・・・そんな大会遠慮したい。
ロブスターは明日に回してもらって、今日はもう帰って寝ようと勝手に決めた私達。
睡魔には誰も勝てないのだ・・・。
今朝の気合はどこへやら、またもや朝までぐっすり眠りこけ、気が付くと、横にスヤスヤ眠るあいつの顔があった。
道明寺の人形のような寝顔を覗き込んでみる。
今朝もうっすら髭が生えていて、唇には縦じわが見える。
昨日は、気付かなかったけど、高校生の道明寺には髭は無かったような気がするし、唇はもう少し赤かったような気がする・・・。
それから、頬に肉も付いてたし、いつもピアスをはめていたのに。
あの道明寺が文句も言わず、こうして静かに二晩も眠っているなんて不思議に思う。
目の前の男は、私の知っている道明寺が明らかに大人へと進化して、突然、目の前に実体を伴って現れた未来人みたいだった。
腕を回されて戸惑うのは当然の事だと、憑き物がポロリと取れるように合点がいく。
道明寺には、正直な気持ちをちゃんと話して分かってもらおう。
今晩、冷静に話し合えば、ちょっと大人になったこいつならわかってくれるかも・・・。
ゆっくり体をベッドからずらし起き上がろうとした時、大きな手に腕をつかまれ、ぐいっと引っ張られた。
「まだ、寝てろよ。じゃねえと、今晩もとっとと眠りこけるだろうが・・・」
「うん・・・」
けれども、目が冴えてちっとも眠れない。
時計の針のカチカチ動く音が耳に残る。
「牧野・・・、眠れないみたいだな。」
道明寺がつかむ手に力が加わり、お腹の上に体ごと持ち上げられた。
「うわぁ・・・」
「牧野、こうやって抱きしめたかった・・・。」
道明寺の瞳は、私を求める熱いまなざしに変っていて、ふっと懐かしい感じがした。
「なあ、このまま・・・いいか?」
「っな///?ダメ!そういうことは困る。」
「なんでだよ?」
「大事な話があるんだ・・・。今晩、ゆっくり話せない?」
「どういう話だ・・・?」
「道明寺、もう野生の勘は働かないの?」
「はぁ?朝から、喧嘩売ってんのか?」
「違うよ・・・。」
「・・・今、話せ。」
低くて冷静な声だった。
「今の道明寺が好きだって、ちゃんと思えないから・・・。」
つづく
コメント