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8.
玄関ホールには、数人の使用人と杖を突いてるセンパイが立っていた。
「つくし、久しぶりじゃないか・・・よく来たね。」
「タマ先輩、ご無沙汰しております。お元気でしたか?」
「心配事がいっぱいで、なかなかあっちへ行かせてもらえないねぇ・・・。」
「タマさん、しばらくご厄介になります!」
「大河原のお嬢様だね・・・、いらっしゃい。」
そして、私は道明寺の部屋へ通された。
「センパイ、ここは道明寺の部屋ですよね?困ります!絶対、困ります!」
「なんだい、久しぶりに会うんだろ? 司坊ちゃんは、忙しい方だから一緒に入れる時間は短いんだよ。一緒の部屋のほうが良いに決まってるじゃないか。」
「でも、まだそんな・・・あの・・・。」
「さっさとやっちまいな! つくし、あんたいくつになったんだい?
坊ちゃんは、24にもなってもう立派な青年だよ。いつまで、待たせんだい!早く、孫の顔でも見せて安心させてくれなきゃ、死んでも死にきれないじゃないか・・・。」
「はぁー。」
タマ先輩にギロリと睨まれると言い返す言葉も空に散り、部屋を出ていく先輩に何故だかお礼まで言って見送った。
年の功と共に、益々凄味がでてくるタマ先輩・・・。でも、ヤバイよ、この状況。
まるで、猛獣に食べられるのに、わざわざ檻に入っていくバカウサギみたいじゃないのよ。
部屋の中を狂った動物のようにウロウロしながら、どうしようかと頭をひねっていた。
Trurururururururururuuururu・・・・・・・・
「ひ・ひぇ~、何?電話?」
恐る恐る受話器を取ると、明るい声の滋さんからだった。
これからハドソンリバーまで行かないかと言う。
NYの9月下旬の気候はもっと涼しいかと思っていたけど、今日は暖かくて半袖でも大丈夫。
ハドソンリバー沿いの公園には、いくつもピクニックテーブルが並び、つい先月まで、たくさんの子連れグループでにぎやかだっただろうと容易に想像がつく。
私たちは、ぶらぶら歩いた後、緑のブッシュを眼下に見下ろせるテーブルを休憩場所に選んだ。
目の前のハドソンリバーは、グレイッシュブルーの色をしてそよそよと風を運んでいる。
滋さんは遠くハドソンリバーの向こう岸NJ(ニュージャージー)を見つめながら、ポツリとこぼした。
「・・・・わたしは、つくしがうらやましいよ・・・。」
「滋さん・・・・?」
「長いこと離れていても、司はつくしのことを大事に思ってる。
司に限って浮気なんて、心配しなくていいもんね。ハッハハ・・・ 好きな人からそんなに想われるなんて、最高だろうな・・・・。」
「そんないいものでも無いっていうか・・・。」
「ねえ、つくし、好きならちゃんと受け止めようよ。滋ちゃん、つくしなら応援するからさ。」
「 ・・・・・。 」
「あのさ、つくしは司のこと好きなんだよね? 」
喉がカラカラ渇いて、ひどく苦しくなった。
ずっと私の心に蔓延していた不安が言葉となって刺さってくるようだった。
『司のこと好きなんだよね?』
嫌いな訳無い。私たちの間には、嫌いになるきっかけすら出来ない距離があったのだし、約束で結ばれた長い時間を越えた絆もある。
思いつめた表情をしていたであろう私を滋さんは、何も言わずじっと見つめていた。
「ごめん、変なこと聞いて・・・。恋人と久々に会えると思ったら、滋ちゃんならもっと嬉しい顔するかなと思ったからさ。
今晩は、司といちゃいちゃして、すっきりしなよ!ね、つくし!」
滋さんの明るい声と背中を押す手のぬくもりが、そこだけが、とっても温かかった。
屋敷に戻ると、疲れと時差のせいでどっと眠気が襲ってくる。
這って行く思いでなんとかダイニングルームへ行くが、道明寺から仕事で遅くなると連絡が入った。
半分瞼が下がっている滋さんにオヤスミを言い、道明寺のベッドにダイブする。
大きくて柔らかくて懐かしい匂いがする。
道明寺に会うと思うと緊張するけれども、抗えない睡魔の方がもっと絶大で、瞬く間に深い眠りの底に落ちた。
誰かに頬を優しくなぜられている気がする、けれども、その人が誰なのかわからない。
ん?朝なの?気持ちいいベッド・・・。もう少し、眠りたい・・・・。
そうだ、ここは・・・、そっと目を開けた。
隣に眠っているのは、紛れもないあいつだ。クルクルした強いくせ毛は、半分ベッドに隠れてるけど健在で、白い枕にいくつも曲線を描いている。
きれいな睫毛はピクリとも動かず、平和を絵に描いたような静かな寝顔だ・・・。
よく見ると、顎の辺りにひげが生えていて、形のいい唇には縦じわがある。
こんな側で生身の男を観察するのは初めてで、リアル感が意外におもしろい。
喉仏がくっきりと突起していて、堅いのか柔らかいのかと好奇心が湧く。
視線を動かすと、裸の胸が目に飛び込んだ。
ドキリと胸が高鳴る。
この広い胸に何度も抱きしめられた遠い記憶を懐かしく思い出した。
よく眠っている。 道明寺は、もしかして真っ裸で寝てるのかい・・・?
もしや、私、裸の奴とベッドに寝てる?
ズボン、はいてくれてるよね?
眠っているのをいい事に、そっと掛け布をつかみ中を覗き込んだ。
「おい、どこ見てんだ。」
ビクッ!
突然、頭の上から聞こえる低い声に、びっくりした。
「いや、あの、あの、元気だった?・・・って」
「はぁ? お前、朝っぱらからいやらしいな・・・。」
「えっ?///////、そ・そうじゃなくて・・・」
長い腕が伸びてきて、私を包んだ。
「牧野、やっと来てくれたか・・・。」
「うん、お・おはよう・・・道明寺。」
「今、何時だ?まだ、5時じゃねえか・・・。悪い、もう少し寝かせてくれ。起きてからな・・・。」
そういって、わたしの腰に手を回したまま、再び眠りの世界に落ちていった道明寺。
ハードな仕事をこなし、疲れきった躯体を休める貴重な時間。
野獣だった道明寺も、体調管理ができる大人になったもんだ・・・と感慨深く思う。
しかし、このままだと完全にやられるよね・・・。
滋さんには悪いけど、ちゃんと受け止めるってかなり難しい?
まずは、冷静に二人で話し合わなきゃ・・・。こんな気持ちのまま抱かれるのだけは、何が何でも避けたい。
さて、どうしよう・・・。
私は、そっとベットから抜け出した。
つづく
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