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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 13
shinnjiteru13

13.

会社で受信メールをチェックしていると、興味を引くフォーラムの案内が目に飛びこんだ。

 『 高化学的耐久性の計算プログラム 釉薬と文化財の展望 』

その道では、名の知れたT氏を囲んだフォーラムはきっと勉強になる。
場所は、T理科大。 進が通ってる大学じゃん・・・。

進は、奨学金をもらい就職に有利な理数系の大学に進学し、現在理学部4回生。
研究で忙しい進に連絡をとり、こんな機会なかなか無いから一緒に参加してくれるよう強引に頼んだ。

進に案内された会場は、すり鉢を半分にした造りになっており、200人程度入れるだろう。
キョロキョロしていると、進は知り合いを見つけたようで話し始めた。

「周、紹介するわ。横にいるのは俺の姉貴・・・。美術雑誌の編集してるんだ。」
「こちら、同じ研究室の友人。」
「あっ、こんにちは。姉の牧野つくしです。弟がいつもお世話になっています。」
「こちらこそ、お世話になっています・・・。 西門 周三郎といいます。」
人懐っこい笑顔の青年は、背筋正しくサッと手を差し出した。
握手を交わしながら、私は確信に近かった疑問を口にする。
「西門って、もしかして茶道家元の?」
「はい。でも僕は、好き勝手な研究を始めて兄に任せっぱなしですけど・・・。
牧野さんって、もしかして英徳でしたか?赤札の人?」
「はははっ、何を間違ったか英徳に通っていたこともあったよ・・・。」
「会えるなんて光栄だな・・・牧野さんは、英徳じゃ有名人でしたからね。
道明寺さんはお元気ですか?」
「もうあいつとは、関係ないんだ・・・。」
「そうでしたか・・・、失礼なこと聞いてすみません。」
「なんだよ、周!お前、西門さんの弟だったの?英徳だったことも、俺、全然知らなかった・・・。」
「研究には関係ないし言う必要ないだろう?!好きな事したくて、英徳を出たんだ。
牧野さんはT氏のフォーラム、初めてですか? T氏の話は、すごく興味深くて楽しいですよ。僕は、もう何度も出ていますから、保障します。」
にこやかに笑う姿は、西門さんより少し身がついていて、温厚そうな人柄に見える。

「今日は初めてなので、弟に無理言って付いてきてもらったんですよ。」
「僕、今まで参加した資料全部持ってますから、お貸ししましょうか?もしかしたら、お仕事のお役にたてるかもしれません。」
善意の申し出を受けることにした私は、ビジネスカードに携帯アドレスをメモ書きして手渡した。

すぐに、周三郎くんから翌日のランチを一緒にどうかという誘いメールがきた。
待ち合わせの場所に行ってみると、嬉しそうに手を大きく振っている周三郎くんが無邪気な子供のようで可愛く見える。

「ごめん、待たせちゃって・・・。」
「いいんです。来て貰えただけで、胸がいっぱいですから・・・。」
「え?」
「僕、牧野さんとランチできるなんて、夢のようです・・・。」
「はい?周三郎くん、何か勘違いして無い? 私は、何も持って無いただの会社員だよ・・・。」
「あの、周って呼んでください。皆からそう呼ばれてますから・・・。」
天真爛漫というか人見知りしない性格というか、ぐいぐい相手を自分のペースに取り込む事ができる才能って、きっと彼の長所なんだろうなぁと思い見つめた。

「牧野さん、嫌いなものありますか?ここのお勧めは、オムライスなんです。デミグラスソースが絶妙なんです。」
「じゃあ、それにする!」

私の返事に顔をほころばせる周くん。
どことなく西門さんの面影を感じるな・・・やはり兄弟だと思う。

「う~ん、そうか、鼻だ! 鼻筋が似てるんだ!」
「僕ですか? 総兄とですか?」
「うん、やっぱり兄弟だなっと思って・・・。
私、お茶を習いにお邪魔してるのに、今までどうして会わなかったのかな・・・・?」
「僕は、ずっと、分家で修行してるんです。
まだ学生ですし、研究が忙しくなってからは、なかなか時間がとれないのですが、茶道のお稽古はまじめに続けていますよ。
茶道は、僕の体の一部ですから・・・。」
「体の一部?」
「だって、お喰い初めから抹茶碗を持たされる家に生まれたんですからね・・・。
普通の家庭じゃないでしょ? でも、総兄のお陰で、こうして好きなことをたっぷりさせてもらえる時間がある。
三番目に生まれたこと、今では感謝してるんです。」


私たちは、英徳時代のことやお茶のことなど話した。
まるで、前からの知り合いのように話せるのは、周くんの持つ人懐っこい笑顔とバリアを作らない性格のお陰だと思う。

「これ、例の資料です。お役に立てたらいいのですが・・・。」
「うわっ、結構な量だね。 すぐには返せないと思うのだけど、いいのかな?」
「大丈夫。 一応、全部ここに入れてますから・・・。」

周くんが左手の人差し指を左側頭部に突き当てながら言うところ、なんだか西門さんの姿と重なって笑える。

「クスッ・・・」
「僕、何か変でした?」
「ううん、やっぱり西門さんと似てると思って・・・。ふふっ・・・。」
「僕は、どちらかというと一番上の兄貴に似てるって言われるんですけど・・・。
そうなのかな・・・?
あっそうだ! 知り合いの家で茶碗を作ってみようと思うんですが、よかったら一緒にどうですか?
世界で一つの茶碗を作りましょうよ! 進も誘ってみましょう!」

陶芸か・・・おもしろそう。
進も一緒なら、連れて行ってもらおうかな・・・。

また会う約束をして、その場をあとにする。
久しぶりに学生時代に戻ったような、そんな無防備で楽しい午後だった。

つづく

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