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15.
周くんの笑顔に迎えられ、西門家のリムジンに乗り込んだ。
商店街には赤・白・緑・金のクリスマスカラーがあふれてる。
リムジンは、流れるように華やいだ商店街を横目に走り過ぎる。
ふと、道明寺の笑顔が脳裏に浮かんだ。
毎年クリスマスには、NYの道明寺から二つのプレゼントが届いてた。
一つは、クリスマスプレゼント。
もう一つは、誕生日プレゼント。
今年は、もうどちらももらうことは無いのかと思うと、恋人という絆が切れたことを改めて思い知る。
道明寺はNYで元気にやっているのだろうか・・・。
あれから、道明寺はどんな気持ちを抱えて忙しい日々をすごしているのだろうか・・・。
自分が牧野つくしであると同じくらい、道明寺と付き合っているのが周知の世界だった。
私でさえ、未だに道明寺と付き合っているという感覚にとらわれていて、戸惑うことがある。
寝耳に水の話を向けられた道明寺の苦悩を思うと、今さらながら独りよがりで一方的な別れ話だったと思う。
けれども、後悔はしていない。
痛い選択であろうと、吐き出さなければいつか歪みが広がり、忘れたくない思い出さえも受け入れられなくなる。
いびつな円には、いびつなハーモニーしか生まれない。お互いが不幸になる。
昔の道明寺を焦がれる幼かった私の恋は、終わったんだ・・・。
なんだか自分に言い聞かせる感じがした。
不安に思い続けた日々が去っても、道明寺という存在は大きくて、私の中から消えることは無い。
新しい洋服に馴染むように、新しい関係も肌に馴染めばいい。
凝り固まった記憶もじんわりと消化していけたらいい。
目まぐるしく毎日が一瞬の風のように流れる。
いつか道明寺がこの風を塞き止めて、俺様の風を作り日本へ帰国するだろう。
その時、私たちはどうなっているのだろう・・・。
「・・・ちゃん、ねえちゃん! 」
「あっ、何?・・・。」
「周が、もうじき着くって言ってるのに、ボーッとしてるからさ。」
「あっ、ごめんね、周くん。」
そして、ほどなくしてリモは停車した。
そこは閑静な住宅街に建つ屋敷で、趣味で作ったアトリエに立派な窯が鎮座する。
未経験者の私達を歓迎し、親切に指導して下さるご主人は、周くんにお茶を習っているという。
「うわぁ、形が崩れた~!周、これどうしたらいいんだよ~。」
「知らねえよ、俺も初めてなんだから・・・。」
私達はキャッキャッと悪戦苦闘しながら、それぞれ思い思いの茶碗を作った。
そして、私はこっそりご主人にお願いして小さなお湯呑みも作った。
「ねえ、これいつ出来上がるの?」
「四日後だって言ってました。 楽しみですね。」
「周くん、連れて来てくれてありがとう。すごくいい経験になったよ・・・。」
「ええ、僕もです。」
人懐っこい笑顔の彼に笑顔を返すと、照れてはにかむ顔が赤ちゃんみたいで可愛いい。
なんだか母性本能をくすぐられる。
進は、その後研究室に戻らねばならず、大学でリムジンを降りた。
「牧野さん、もう少し時間ありますか?
僕、お腹すいてるんですけど、何か食べません?」
「私もおなかペコペコ!」
連れて来てくれたお店は、若者向けのビストロだった。
「ここ、何でもおいしいんですよ。 今日、付き合って下さったお礼にご馳走しますから。」
黒のハイネックセーターの袖口を右・左と肘まで引きあげながら言う。
「いいよ・・・。私のほうがお姉さんだし、これでも社会人ですから・・・。」
「僕、女性に払わせるような教育受けていませんよ。」
さらに何かを言いた気な眼差しで見つめられ、ちょっと戸惑った。
「じ・じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・。今月は、物入りだから助かっちゃったなぁ・・・。」
体を動かした後のビールやお料理は、とてもおいしい。
赤ワインを口に含んだところで、周くんに見つめられそのまま見つめ合った。
「牧野さん・・・」
「・・・うん?」
「あの・・・僕はもっと貴方のことが知りたいと思っています。また会ってくれませんか?」
予期せぬ直球だった。
ワインをゴクリと飲み込んで、懸命に言葉を探す。
「どうして私なんかと?」
ホント芸の無い間抜けな答えしか出てこなくて、情け無い・・・。
「牧野さんが、兄貴たちF4を変えた人だから・・・
それが、今のところは答えかな・・・。
僕は三番目の末っ子で、周りの大人達から可愛がられ育ちました。
でも、僕が後を継ぐことはないって僕自身が一番わかってた。
兄達と違う扱いを受けてきましたから・・・。
たくさん悩んだ挙句、気付いたんです。
茶道だけの世界に生きることより、実りのある人生を送ることが幸福だと。
大学卒業後、僕は大学院へ進みたいと思っています。
でも、その後は・・・?本家家元でなくても、西門の名を背負って二束の草鞋を履くのはもう無理ですよね。
僕は、西門を捨てるか決めなくてはならないんです。
・・・間違えないでちゃんと決められるかな・・・僕に。
牧野さんはきっと僕に何かを与えてくれると思う。
なんとなくそう思うんです・・・僕の勘、良く当たるんですよ、ハハ。
貴女に興味があるって言い方失礼かもしれないけど、気になって仕方ないから。
とにかく、また会って欲しい。
もっと貴女という人間(ヒト)を知りたい・・・。」
今風のBGMやテーブル横の学生達のにぎやかなおしゃべりが、背中で遠慮がちに流れている。
同じ両親から生まれたのに、西門さんとまるで違うストレートな物言いに少なからず驚いた。
けれども、研究室での探求心そのまま向かってくる姿勢は学生らしくて、不思議と好感がもてた。
「構えないでくださいね。 付き合ってくださいってお願いしてるわけじゃないですから。
僕は、それでもいいんですけど、僕じゃ物足りないですよね・・・。」
「周くんは私を買いかぶっているだけだよ。 だいたい、私が西門さん達を変えたなんて思ってないし、大事な選択に役立つ力なんて持ってないよ・・・悪いけど。」
「だから、構えないでくださいって!クスッ・・・」
人懐っこい笑顔で笑う周くんの表情には、緊張の欠片も無い。
もう一度会うだけなら、戸惑うのも馬鹿らしい。
「別にいいけど・・・、期待はずれでがっかりするよ。」
「・・・、大丈夫・・・。」
目の前の周くんは、口を閉じ静かに私の瞳の奥を見つめていた。
まるで、返事を噛み砕き味わい体内へ吸い込んで、吸収しているような感じだった。
そして、確実に身に付け、大きく成長しているようだった。
人懐っこい笑顔の青年が見せる冷静な表情。
こんな表情もするんだ・・・。
私が与えてあげられるものなんてあるのだろうか・・・?
いきなり、居心地の悪い針の上の筵に席替えさせられたような心地がした。
黙り込まれるのに慣れてなくて、少し窮屈に感じただけかも知れないけれど。
そして、周くんは吸収し終わったのかニコリと微笑み、重厚なメニューを開き2本目のワインを選び始めた。
黒いセーターの両袖口からは、白い腕がのぞいている。
抹茶の香りがしてきそうな・・・しなやかな腕・・・。
いつか茶室で見てみたいと、何となくぼんやり思った。
つづく
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