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16.
久しぶりに桜子から電話があって、機関銃のように道明寺とのことなんだかんだと聞かれた挙句、大きなため息をつかれた。
「やっぱりそうなりましたか・・・。
なんだか、私が落ち込んじゃいます。」
「なんで、あんたが落ち込むのよ。」
「先輩がおかしいこと気付いていたのに、何もできなかったから・・・。」
察しのいい桜子は、気付いていたという。けれども、道明寺の強い思いを知り尽くす桜子だから、信じる思いも強かった。
沈黙の後、友人としての温かい言葉をくれた桜子。
「先輩、この時期一人は堪えるんですよ。みんなで集まって、パーッとしましょう!」
そして、お店も順調な経営状況である桜子が、セットしてくれた集合時間は8時。
それでも、私がお店に着いた時、先に着いていたのは優紀と滋さんと桜子だけだった。
滋さんとは、成田で別れて以来だ。
道明寺との空港でのやり取りを見ていた滋さんが、もうじき日本に到着する頃になって重い口を開いた。
『つくし、NYに誘ってごめんね・・・ただ、司と仲良くして欲しかったの・・・』と泣きながら謝る滋さんの瞳は、
小さな窓から差し込むオレンジ色の朝日に照らされて、せつない程美しくて引き込まれた。
ようやく、ちゃんと言えた到達感と言ってしまった脱力感と道明寺のぬくもりに二度と触れられぬ寂寞感がグルグルと胸にこみあげて、涙があふれ出し止らない。
滋さんの涙を見るまで、涙を流す行為を忘れていた私。
「私こそ、ごめん。ごめん・・・。」
何度も口から出た。
遠くなるNYへ吐き出すように、何度も・・・。
誰も悪くないのもわかってた。
ブランケットには、涙のしみが広がって冷たくなっていく。
あの時、横に滋さんがいてくれたから泣くことができたんだ・・・。
目の前の明るい滋さんに、あたたかい感謝の気持ちが湧き上がる。
遅れてやってきたF3を混じえ、ようやくみんなで乾杯した時は既に出来上がっていた私達T4。
どかりと椅子に腰を下ろす類は、激務が続いて疲れた顔している。
首を振りネクタイを緩める仕草も、けだるくつらそうに見えた。
「類、大丈夫?仕事、無理し過ぎなんじゃない?」
「大丈夫じゃないって言ったら?」
いたずらっぽい笑みをつけて、薄茶色のビー玉のような瞳を向ける類。
「もう、人が心配してるのに・・・。」
「ありがとう、牧野。 少し元気でたかも・・・クスッ。」
「おいおい、心配するのは類だけかよ。師匠に向かってため口利く手のかかる弟子を持つ男もいるんだぜ・・・。」
「///西門さん!そんな減らず口叩けるっていうのは、元気な証拠でしょうが・・・。」
「お前は、おっかねえな・・・。茶室では、あんなに大人しいのにな・・・。」
「西門さんだってそうじゃない。今の西門さんからは想像出来ないくらいだよ。」
「想像出来ないくらいどうなの?カッコいい?もしかして、俺に惚れちゃった?」
「はあ?何言ってんの?」
痴話げんかになってきたところで、美作さんが類に話しかけた。
「それはそうと、類のところ、UAE(アラブ首長国連邦)に支店を出すらしいな。」
「うん、そう。 業務委託でなく、本腰いれることにした。」
花沢物産は、石油関連を中心にUAEにある現地法人に業務委託をしてきたが、
UAEの石油依存型経済からの脱却方針に伴う多角的産業の急速な発展の中、子会社化するにとどまらずドバイ支店開設を決定した。
それは、花沢物産といえども、中東天然資源恩恵地域において唯一外資系企業が集中する中東経済拠点に日本を背負って挑むことを意味し、
失敗の許されない商社の命運がかかるといっても過言ではない決定だった。
その中心となる首脳陣の一員に抜擢されたのが、時期花沢物産社長 ―花沢類。
「JAFZ(ジュベル・アル・フリーゾーン経済特区)にか?」
「まだ確定してないけど、多分。優遇制度が厚いからね。」
「そこ、うちの系列ホテルがあって、純利益が上向きなんだよね。 滋ちゃんが視察に行った時、類くんに遊んでもらおうかな、よろしく!」
「いづれあっちに駐在する予定なのか、類?」
「暑いの嫌いだから、嫌なんだけどね・・・。」
「うそっ!類、行っちゃうの?」
「クスッ、まだ決まって無いよ。でも、出張が増えるのは確か。」
「俺だってイタリアで修行してみるかって、親父から言われてるからな。若いうちに、経験を積ませたいのが親心なんだとさ・・・。」
道明寺はNY、類が中東へ行って、美作さんまでイタリアに行ってしまうとなると、F4がバラバラになってあまりにも寂しい。
でも、私よりずっと西門さんの方が寂しいはず。
その様子を伺ってみても、ロックグラスに入れたアイスの塊りを慣れた手つきで軽やかに人差し指で回す姿はいつもの姿。
西門さんにしても、短期的に海外支部活動に出かけることも多くなるだろう。
まあ、世界をまたにかけるのは、ジュニアの宿命と刷り込まされているのだろうけど。
ボーット西門さんを見つめていると目が合って、何?と眉毛を上げられた。
「西門さんは、ずっと日本だからよかったね。」
何を言う私の口。 勝手に口から出て、あせった。
「あぁ、まあここが本拠地だからな・・・。」
「そ・そういえばさ・・・、西門さんの弟の周三朗くんって、進と同じ大学の研究室だって、知ってた?」
「・・・?」
「おう、周のやつもう大学生か・・・。英徳から出たのか?」
「家は俺に任せて、自分は好きなことしたいらしい。」
「ちゃんと将来のことも考えてる立派な好青年じゃない。 悩んでたよ、茶道のことも。」
滋さんが、興味深げに周くんはどんな感じなのか聞いてきた。
鼻筋が西門さんに似ていて、少し肉付きがいいこと。
ストレートな物言いだったことを伝えるため、また会って欲しいといわれたいきさつを教えた。
「へー、まきの、信頼されてるんだ・・・。」
類にとっても、意外だったようだ。
「きゃー、それって恋に発展するかもですねー、先輩。」
酔い口の桜子がからかうように言う。
「そんなことあるわけないじゃん、可愛い弟みたいな感じだよ。」
「・・・悪かったな。俺から言っておくから。」
「へ?やだ、西門さん。別に嫌だって思ってないし、こんな私でお役に立てるなら喜んで・・・。」
「そうですよ、先輩だって新しい恋を見つけないとダメなんですから、芽をつまないでくださいよ、西門さん!」
「だから、そんなんじゃないってば・・・桜子。」
西門さんが困ったような顔をしていたのは、兄としての顔だけではなかったことに私はまだ気付かなかった。
つづく
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