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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 23
shinnjiteru23

23.

ペロ ペロ ペロ ~ 

「ちょっと、くすぐったい!もう、おしまい!」
「へぇ~、小さいのに器用に動かせるんだ。 よく知らなかったけど、きれいなピンク色してるもんなんだね。」
「おいしかった?
お利口さんだから、もう少し待っててね~。」

私の目の前には、今ゾッコンの彼氏を連れて行くからと電話をかけてきた桜子が、満面の微笑みを浮かべて座っている。
こんなに穏やかで優しい桜子の表情は、高校時代まで遡っても、思い出せない。

「バトラーは、今やうちのお店の看板犬で人気者なんです。
この子の着ているお洋服はよく売れるし、俗に言うカリスマモデル・・・かな、フフッ。
まだ子供なんだけど、とっても賢い子だから、店内に居てもお利口さんで静かにできるしねぇ~。」

目尻を下げて、バトラーの頭を愛おしそうに撫でる桜子。
薄茶色の毛並みは艶やかで、血統の良さを感じさせる。
きっと、目が飛び出るくらい高価なのだろう・・・。
けれども、クスッ、どこか滑稽な胴長短足のミニチュアダックスフンド。
桜子にされるがまま気持ちよさ気にジッとしながら、パッチリ開けた黒い両目で、店内を歩くスタッフを好奇心いっぱい見てる。
このアンバランス感が桜子の乙女心を鷲掴みにしてるのだろうな・・・。


「お仕事が終わると、このキュートな瞳で『お疲れ様』って言って癒してくれるんですよ。
この子は、絶対裏切らないし、私一筋ですからね。
最高の彼でしょう?
桜子はバトラーが居てくれたら、もう男なんて要りません。
男は、卒業!」
「あんた、卒業って・・・。
犬が本当に分かって言ってるわけ無いじゃん。」
「いいえ、絶対そう言ってるんですって!
先輩には、わからないかもしれませんけどね。」

親ばか、もとい、飼い主ばか?
桜子のお店は軌道に乗ってるみたいだし、盲目的愛情を注げる対象が出来て、情緒も安定してきたんじゃない?
まあ、よかった、よかった、幸せそうで・・・。

「先輩、この子のブリーダーさん紹介しますから、新しい彼氏どうです?
真っ暗な部屋に帰るのって、つらくないです・・・ねえ?
凍えた体を心までを温めてくれますよ。」
「いいえ、結構!
うちはアパートだからね、近所迷惑になるでしょう。コタツもあるし。」
「あーそういえば、西門さんの弟さんと上手くやってるんですか?
最近会ってます?」
「まあ会ってるけど、べつに何にもなってないよ。
周くんは、進の友達だからね。」

女二人の会話はリズミカルな調子でBGMに溶け込んでいく。
ザワリとその場の空気がかわった気がして視界を広げると、黒いジャケットに身を包んだ細身の優男(やさおとこ)と目が合う。
本来の待ち合わせ人が周囲の女の子の視線を集めながら、私達のテーブルへと近づいていた。
コツコツコツ・・・
「よっ!」
「西門さん。」
「おうっ。・・・んで、なんでここに桜子がいるんだ?」
「久しぶりなのに、その言い方は失礼じゃないですか?なんか他に挨拶があるでしょう?まったく・・・。」
「その小っこいの、お前の?」
「そうですよ~、バトラーと言いまちゅ~う、ヨロピク!」
桜子が子犬の片手を持ち上げて挨拶させるのを見て、西門さんの眉間に微かな皺が寄ったのを見逃してはなるまい。

「あ~、ごめんごめん、桜子から電話もらってね。
今日、西門さんと会う予定だって言ったら、その前にちょこっと会おうってことになってさ・・・。」
「折角のデートに横入りしてスミマセンね。お邪魔なようなので、すぐに失礼しますから。」
「何言ってるの、桜子。邪魔なわけないじゃん。
デートじゃなくて、今日は仕事の打ち合わせだから。ねえ、西門さん?」
「まあな。」
バトラーは桜子が言うように本当にいい子で、私たちが近況報告し合う間、吠え方を忘れたように静かに待っていた。

「・・・んで、見かけた時、どうして声かけてくれなかったの?
西門さんのお母様からお借りした振袖、すごかったんだよ。
本当に素敵だったのに・・・。ちゃんと見た?」
「だから、見たって・・・。水色の振袖だろ?
お前、廊下をキョロキョロしながら歩いてたよな。」
「呼び止めてくれればよかったのに。」
「結構距離があったし、接客中で手が離せなかったからな、普通に考えて無理だろうが。」
「でも、西門さんなら、どこでも顔出せるし、探してくれてもよかったじゃない。」
初釜の日、西門さんは振袖姿の私を見たと言う。でも、私は・・・。

「はは~ん、そういうことですね。先輩は、西門さんの反応が見たかったんですよね?
振袖姿で悩殺された西門さんねぇ・・・。
かわいい乙女心じゃないですかぁ・・・。」
「 /// 。」
桜子に核心をつかれて、ドキッとした。

「ふふっ、ブリーダー紹介しなくてもいいかもですね。
先輩、がんばってください。じゃ、桜子はこれで失礼しますね。」
「ちょ、ちょっと、桜子・・・」

眠そうなバトラーを小さなケージに入れて、桜子はお店を出て行った。
目の前の男は、面白そうに私をジーッと見ながら言った。

「そうなの?つくしちゃん?」
「べ、べつに、西門さんを見たかったわけじゃなくて・・・。
まあ、お母様にお借りした着物だから、感想とか聞いておきたかったなと思って。///」

「ふ~ん、もう一回着る?」
整った顔で真っ直ぐ聞かれると、無条件で頷いてしまいそうになるから怖い。
体勢を立て直す隙を与えないなんて反則だ・・・///。
「は?そ・そんな簡単に・・・。」
すると、お勘定書を手に取り『 出る? 』って目で聞いてきた男。

出る、出る、出ます!
こくりと頷くしかないでしょう。

店の前には、西門さんの大きなバイクが堂々と停まっている。

「これで行っちゃえば、早いんだけど・・・15分くらい。 乗ってみる?」
「あれっ?女は乗せないんじゃなかったっけ?」

「あの頃は格好つけて言ってただけだ。 ホイ、これかぶれ。」

差し出されたヘルメットを受け取りながら、まさかこんな展開になるなんて想像もしてなくて、どうしようもなく心が躍った。
「そうやって俺に腕を回して、しっかりしがみついとけよ。
気を抜いて離したら、大怪我するぞ。」
「うん。」

ブルンブルン・・・・轟音をたてるバイクに私のドキドキもマックスに達しそう。
細いと思っていた西門さんのウエストは、意外に大きく固くて、まるで公園の大木にしがみついてるようだ。

少しでも気を抜けば、すぐさま後ろに吹き飛ばされ、道路に落とされてしまいそうになる。
落ちたらどうなるか・・・その先が頭に浮かんできて、ブルッと震えた。
目的地まで走らせる西門さんに全てを預け信じるしかない。

バイクの後部座席に乗ってる人って、皆命がけだったんだ・・・と妙なことに感心する。
西門さんの背中にぺったり右頬をつけて、絶対離れないように必死でしがみつく。
徐々に西門さんの体温が頬に伝わって、心臓がむず痒くなってきた。

どうしたもんだか思考をグルグル回転させるも、この状況下、西門さんの背中だけが頼り。
その心臓をきつく押し付けるようにしがみついた。

わずか15分間のトリップ。
激しい向かい風と西門さんの体温に平常心を根こそぎ持っていかれる。
流れる景色は色を失い、ただ、私と西門さんとバイクの振動だけがにぎやかな色をぶちまけながら痕跡を残して進む。

心臓を押し付けると、ドキドキした思いが口から飛び出そうになり何度も飲み込んだ。
きつい姿勢から早く解放されたいのに、どこか温かく満たされてくる思いは何だろう?
まだこのままでもいい不思議な気持ちは一体何だろう?

バイク音のトーンが低くなり、スピードが落ちた。
そして、薄黄色のタイルで覆われた区民センター前で停車した。 

「お前、抱きつきすぎ。」

半分振り返りながら言う西門さんは、ヘルメットの下であきれた顔してるのかな?
ダークグレイのアイガードの下は、どんな表情なのかさっぱり見えない。

「ご、ごめん。だって、落っこちないように無我夢中で・・・。」
「ククッ、まあ、そのうち慣れるだろうから・・・。」
「えっ?」
「中だ。 行こう。」

黒いサラ髪を掻きあげながら、入り口に向かう男の背中にまだ温かな名残を感じながら、引きこまれるように付いていった。

つづく

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