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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 25
shinnjiteru25

25.

柔らかなグレイッシュブルーの絨毯が引きつめられ、白と黒でまとめられたテーブルセッティングは、モダンで優雅だ。

着飾ったお客さんと黒スーツの給仕がいるお店。
入り口にはイタリア語と日本語の立派な写真と表彰状が飾られてあった。
きっと、有名シェフがいるお店なのだろう。

「ねえ、私、麺類ってリクエストしたよね?」
「パスタでいいんだろ?」
「・・・ほ~ぅ。」
肩からガックリ力がぬける。

麺類といえば、ガヤガヤした中で食べるもんだと思ってたよ。
生活レベルの差は、こういうところに出るものかと勉強になるわ。
私の頭にあった麺類店の汗まみれの親父が頭の中で手を振っている。
おじさん、また今度ね~。

「何?この店、気にいらなかった?」
「いいえ、結構ですとも。 こうなったら、何でも。」
「ホントにいい?ここで?」 首を斜めにかしげる西門さん。
「はいな。今日は、お礼にご馳走するつもりですから、遠慮なく選んで!」
「クッ、いいって、無理すんなって。」
「だって、西門さんのお陰で、担当ページに目処(めど)がついたし、今日一日空けてもらったしさ・・・忙しいとこ。」
「じゃあ・・・、上手くいったら、俺のおねだり聞いてもらおうかな~。」
「それ、怖すぎ。 そりゃ、大学時代よりましだけど、上限低いよ。」
「無理は言わないから、だいじょ~ぶ。」

西門さんからのおねだりなんて、全く想像がつかないよ。
メニューに目を通し始める西門さんが上機嫌なのは、さては良からぬことを思いついたか・・・?
こんな風に金持ちが愉快そうに企む場合は、経験上、たちが悪いものだと知ってる。
一人悶々と考えながら睨みつけても、意に介さない目の前の男をどうしたものか。

「なんだよ、ブスッとして。 何をおねだりされるか、そんなに気になる?」
「うーん、どっちかというと、気色悪い。」
「フッ、残念、まだ内緒。 心配すんな!すぐに分かるって。」

西門さんが口を割る気にならない限り、私の力で聞き出すことは無理なのは火を見るより明らかなこと。
諦めは心の養生、西門さんに立ち向かうのは、愚の骨頂。
白旗を揚げ、そそくさとメニューを開き、筆記体に続く日本語に集中することにした。

ワインの代わりにスパークリング・ウォーターを口に含みながら、社会科見学で訪れた日のことをポツリポツリと話してくれた西門さん。
西門さんの口から、幼少時代のことを聞くのは、今生庵の話についで二度目。
秘密をこぼしてくれてるみたいで、もらさないよう黙って聞いた。

それでも、もっとたくさん聞きたい。

その日の区民センター訪問は、お年寄りと昔遊びをするのが目的だったらしく、Y字型の小枝を使ったパチンコ作りに圧勝したのが花沢類だったそう。
手先が器用な彼らしい。

でも、一番遠く飛ばせたのは道明寺で、二番が花沢類。
美作さんは、お婆さんにずっと手を握られていたらしくて、西門さんはたくさん折り紙を折ってプレゼントしたって・・・。
女性職員と手をつないでいたんじゃないの?

英徳幼稚舎時代、妬けるくらい仲良かったF4の話は自分のよりずっと楽しそうに聞こえる。
一緒に過ごした時間だけ共通の想い出があって、そのまま大きくなった貴方達4人がうらやましいよ。
そういえば、道明寺の家のマントルピースにチビF4の写真がデカデカと飾られていたっけ。

「ねえ、西門さん家にもその頃のF4の写真って飾ってるの?」
「司ん家にあるみたいなやつか?
あんなに引き伸ばして飾ってんのは、あいつん家だけだろう。
姉ちゃんと二人きりでさびしかったんじゃねえ?」

『・・・だから、あんなに愛情表現下手になったんだ・・・』

「司のやつ、今頃どうしてるんだろうな?」
プレートからゆっくり目線をあげ、確認するようにしっかり相手を見据えてくるが、魅惑的な涼しげな瞳はあくまでさりげない。
「年末に電話あったけど、ホリデーシーズンだから仕事片付けるって天邪鬼なこと言ってたよ。」
「それだけ?」
「それだけって?」
「話があるからかけてきたんじゃねえの?」
「べ・べつに話す事なかったしさ。 」
「お前じゃなくて、司の方に。」
突然、道明寺に『お前、好きなやつできたのか?』って聞かれ、無性に落ち着かなくなって、挙句にきまづいまま電話を切ったなんて言えないよ。


「・・・と・とくには変わった話もせず、世間話だけで切ったから。
あのさ、道明寺は仕事が恋人みたいなもんでしょ。
西海岸にある大手食品会社の吸収合併も成立したみたいだし、毎日充実してるんじゃない?
仕事ばっかりしてないで、ちゃんと休息とればいいのにね。
あいつ、ずいぶん、先に行っちゃったね。
昔の馬鹿な道明寺がうそみたい・・・。」
「牧野は、後悔してねえんだな?」
「私は後悔しないために、わざわざNYへ行ったんだよ。」
「そうだったよな・・・。」
口角を上げて、微笑む西門さんの瞳が揺れる。
なおも、私を捉え続ける瞳にどう応えていいやら落ち着かなくなり始めると、西門さんが視線をはずしてくれた。

「牧野に渡すものがあるんだ。」
「 ? 」
「誕生日ずいぶん過ぎちまったけど・・・。左手出して。」


言われるとおり、テーブルの下から手を出して、胸の前へ伸ばす。
西門さんの手には、海の色を思わせるグリーンがかったエメラルド・ブルー色したベルベット地の小袋が握られていた。
若い女の子なら、一度は誰もが憧れるブランドの袋だ。

そして、その小袋から現れたのは、全体がスパイラル状に捻られた金色x銀色のバングルで、砂糖菓子のように私の心を掴みキラキラ光っている。
西門さんの手によって、留め金がはずされ、パカリと口を開けられ、そっと私の腕を収めた後、

“ カチリ ”

と小さく音を立て閉じられる。

そのバングルは、再び綺麗な輝きを持つ完全な輪になった。
私の腕を閉じ込めたまま・・・。

そして、魔法がかけられる。

宛(さなが)ら、お城の王子様が舞踏会でダンスを申し込むように、西門さんが私の指先を掬い取る。
腕のバングルを賛美した瞳は、その彫刻作品のような成り立ちの中、私を映し出す。
形の良い鼻筋から左右に伸びる美眉は、その成りの品格を示し、口元は歌うように優しく甘いのに、微かに動いた眉端は妖気をふりまき、ドキリと鼓動を乱れさせた。

至極整った顔立ちは、魔力を持つのか、抵抗を砕く最高の武器になる。
私の中で深く眠っていた甲を求める乙の本能が、ピクピクと触覚を立て起き上がる。
かつて、さんざん受けてきたひやかしやからかいの瞳と別物の、ほとばしるような熱い瞳で覗き込まれ、媚薬をかけられたように体の感覚を奪っていく。


周りの空気ごと切り取られ、四方八方から押され、息苦しく感じ始めたひと時。
黒いサラ髪の奥から見つめる深い瞳は、妖しく魅惑的に銀色めいて、現実感のない世界へ引き込み、もう戻れない錯覚を呼ぶ。
時間にしたら、数秒だったかもしれない。
美人は三日で飽きるといわれる。
男前だってそうかもしれないけれども、ずっとこんな風に見つめられるのなら、このまま化石になってもいいと思った。
息を吸うのも忘れて、指先のぬくもりが離れないように懇願した。


「おめでと。 ・・・牧野をつかまえた。」
「  んなっ・・・・・????? 」

言葉の意味が飲み込めず、頭の中はパニック状態。
ゴクリと唾を飲み込んで、言葉を搾り出した。
「・・・ど・・どういう意味?」

「牧野を手錠でつないどくことにする。 
そのままの意味だけど・・・。
深く考えるな。
うちに帰って、ゆっくり考えろよ。」

冷や水を浴びせられ我に返るものの、さらに、頭の中は混沌としてわけがわからなくなった。
手錠でつなぐってどういうこと? 
普通に考えてわかんないから、深く考えてるんじゃない。

ゆっくり考えろ?
何なの?暗号?
解読は、降参!無理です!
やっぱりこの男、私で遊んでる?
肝心な時、いつも理解不能。
一度、西門さんの脳みそをかき混ぜて、素直な並び方に変えたいよ。
今回のは、新手のからかい?

「は~、西門さん、本当に止めてよね!」
「なんで?」
「なんで?って・・・。
誕生日プレゼントなら、普通に渡してくれたらいいじゃん。
変な言葉くっつけるから、もらいにくいよ。」
西門さんの揺ぎない瞳が、わずかに曇り陰りがさす。

「なあ、牧野、お返しだから、とにかくもらっとけ。
気に入ってくれたら、嵌めてくれればいい。」
「 ・・・・ う・うん、わかった。 ありがとう。
こんな高価な物、もらっていいのかな・・・。
私は、お湯呑みしかあげなかったのに。
じゃ、来週のチョコ、期待しておいてね~。」
「あぁ、バレンタインか・・・。」
「その日は無理かもしれないから、前日に渡すからね。
ごめんね、周君と約束があるんだ。」

「 ・・・っ!? 」

「東北にある鉱石博物館に行くの。
“土と陶芸の切れない関係“っていうBD企画講演があるらしくて、何も用事ないなら行こうって誘われて。」

「 ・・・ 行くなよ。」

「うんっ?」

口に含んだ紅茶をゴクリと嚥下した。

「 ・・・・いや、 忘れて行くなよって。」

「何を?」

「折角だから、バングルつけて行けば?
なあ、牧野、・・・ふぅ~。
とにかく、忘れて行くなよ。」

「う・うん・・・そうだね。 西門さんがそうして欲しいなら、持ってくよ。
なんか、お守りみたいだね。」

つづく

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