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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 27
shinnjiteru27

27.

牧野のどアホが・・・バッテリー切れか?マナーモードのままか?

あいつ、こんな調子でよく仕事やってるよな。
“携帯電話”の意味あんのかよ!

クソッ!

念のため、真夜中を少し過ぎた頃、牧野にメールをいれてみた。
それとなく自宅に帰っているのか探りを入れる内容のメール。
けれども、あいつからの返信はなく、着信ランプはいつまで経っても光らない。
携帯を睨みつけ、念を送り、また携帯を注視するのを繰り返すこと数回。
その挙句、独り相撲にアホらしくなりベットにダイブする。

女々しくて野暮な事だと思いながらも、牧野に周と出かける予定を尋ねた。
東北方面ならば一泊するだろうと踏んでいたところ、日帰りに決まってる!とあっけらかんと答えた牧野の顔が浮かぶ。
周のやつも女知らずの堅物ではない。
兄弟だから知覚できる性的本能、求愛行動が自分のそれと親しみがあり、ある程度想像できてしまうから、俺の警戒信号がしきりと黄色点滅する。

『 まだ周と一緒か・・・? 』

安眠を約束してくれるはずのベッドも、ただのベンチと化しどこまでも頭が冴えて仕方ない。
埒が明かない牧野に見切りをつけ、周に教科書みたいな簡潔メールを送る。

“ 牧野をちゃんと送れよ。”

周からは、即返事。

  “ 帰る道中です。 遅くなるけど、ちゃんと送るから。 ”

あいつらしい優等生のメッセージが返ってきた。

ベッドで見慣れた天井を眺めていると、牧野の色んな顔が次々浮かんでくる。
まるで頭の中に巨大スクリーンがあるみたいだ。
どこからこんなにたくさんの牧野が出てくるのだろう・・・?
99%無防備でいるはずの牧野が心配で、俺のイラつきが収まるどころか雪だるま式に膨らむ一方。
神経がざわつく。

俺がこんなに振り回されるなんて・・・、ふっと新鮮さに爽快さを覚える自分がおかしくもある。
明日、さりげなく電話すりゃいいのにと、俺の抜け殻が囁くものの、もはや導火線に火がついた状態で、それができないのは百も承知。
目を堅くつぶっても、瞼に全神経が集まってカッカと熱くなるばかりだ。



いつもの牧野の顔が見たい。
牧野を俺のそばに感じたい。
そうしたら、安心して眠りにつけるはずだ。
せめて、声だけでも牧野と繋がりたかった。
周に感じる嫉妬心は、青い炎を上げ燃え盛り、内から力(パワー)を呼ぶ。
俺は、ただ確認するつもりだった。 
時刻は既に丑三つ時、針と針の間は、きれいな60度で2時をさしている。

Trururururururu・・・・・・・・・・

応答なし・・・。

受話器を置くなり、体が動く。
素早くバイクのキーをひっつかみ、玄関へ向かう。
牧野のアパートまで15分、まっすぐ走らせた。
牧野の部屋は真っ暗で物音一つしない。
呼び鈴を鳴らすが、応答なし。

まだ帰ってない・・・。 

残るは周のマンションか・・・。
来た道を引き返し、オレンジに光る高速をひたすらぶっ飛ばした。
一度も行った事無い神楽坂のマンションは、一際高層なので容易に見つかった。

性急に部屋番号ボタンを鳴らし続けると、セキュリティー画面が発色し、周の訝しげな声が聞こえる。

「 総兄? 」
「 おい、そこに牧野いるんだろ? 開けろ! 」
解除のブザーとともに、周の誕生日でもある903号室目指して駆け込んだ。

女性物の靴を目にした総兄は、僕の肩をすり抜け、つかつかリビングへと入っていった。
「・・・牧野は?」
「奥のベッド・・・。」
僕には目もくれず、奥のベッドルームの扉を開け、スースー寝入っている牧野さんに近づき、顔を覗き込んでいる。
そして、そっと掛け布団をめくった。
「周、お前、何も手出してないんだな?」 と静かに確認する声が闇に響く。
「当たり前でしょう・・・総兄とは違うし・・・。」
と余裕で答えたものの、この寝息を聞きながら、さっきまで己(おのれ)と猛烈に戦っていたのがバレやしないか冷や汗ものだ。
僕は、目覚めた牧野さんにどう言い訳すればいいのか知恵を絞りながら、牧野さんを力任せに征服してみたい身勝手な欲望に囚われていた。
もし、総兄が来なければ、その肌に触れたい衝動に抗えなかったかもしれない。


少女のようにあどけない寝顔を見つめていると、牧野さんの全てを知りたい欲望が湧いてきて、それを知れば、ずっと望んでいたものが与えられるような気がした。
牧野さんの中で、僕は温かく包み込まれ心まで満たされるだろう。
小さな頃の寂しかった記憶の隙間を埋めてくれる。
同時に、西門家のマスコット的に扱われた僕が、ようやく総兄と肩を並べて立てるのではないか・・・とまるで妙案を思いついたように体が嬉々として動いた。

頬にかかる髪の毛を人差し指で掬い取り、耳へかけてあげる。
この無防備に眠る存在が、シンプルな純恋愛と言えなくても、刻々と愛おしく思える。
僕の全身を使って、最後の血の一滴まで愛してみたい強い欲望が湧く。
自己愛の成れの果てに、僕がこんな厳かな気持ちで女性に触れてるなんて思いもよらなかった。
そっと首筋に唇をあてがい、牧野さんの匂いを嗅ぎ、ぬくもりを感じた。

「 う・・うぅ~ん・・。 」

起きた?
いや、まだ眠っているようだ。
いたずらが見つかりそうになって、子供のように息を潜ませた。
今、僕がしようとしていることは子供の遊びなんかじゃない。
取り返しのつかない犯罪だと、冷静な僕が忠告する。

例え、牧野さんに悲憤慷慨(ひふんこうがい)泣かれても、骨髄に徹するほど恨まれても仕方ない下劣な行為。
公序良俗に背きどの面下げて牧野さんに会えるのか、もう二度と春陽に向かって咲くタンポポのような明るい姿に会えないだろう。

僕が身を切るように牧野さんから離れた時だった。

ピンポーン・・♪

大きな呼吸をし、真剣な顔した総兄だった。
リビングの奥の部屋で牧野さんを確認した総兄。
ドアをそっと閉めるや、その憤りを気迫で語る男が何を言うか身構えた。
「周、どういうつもりだ? 牧野をちゃんと送るんじゃなかったのか?
なんで、お前のベッドにいるんだよ!?」
「牧野さんに声かけたけど、起きなかったから・・・。」
「そういう時は、たたき起こせ! あいつは普通の脳味噌もってねえから。 」
「なんで・・・? なんで、そんなに躍起になるわけ? 
牧野さんは、総兄にとって何なの?」
「 ・・・・大事な仲間に決まってる。
  周、言っておくが、あいつだけは部屋に連れ込むな。
俺だけじゃない、司だって類だって黙ってねえぞ。」
「仲間ってだけじゃないんじゃない? ・・・・もしかして、好きなんじゃないの?」
「お前には関係ない!」
「関係あるね! 僕だって、牧野さんを愛しく思ってる。」
「は?愛しい?」
「あぁ。 さっきだって、愛しさ余って眠ってる牧野さんを無理矢理犯して、俺だけのものにしたいと思ったね。
 牧野さんが嫌がっても、力でねじ伏せれば出来るだろ?」
「なにぃ~お前、本気で言ってんのかよ!!!もういっぺん、言ってみろ! 力でねじ伏せるだとぉ~?それが、愛しいってことか?」
総兄は、怒りを隠すことなく、胸倉を思い切り掴んで、今にも殴らんばかりの勢いだ。
「そうだよ、総兄に立ち入って欲しくないね。」

バコ~ン・・・・

僕は、思い切り左頬を殴られ、ソファーに吹き飛ばされた。
口の中に苦い液体が拡がり、胃の血管が収縮し嘔吐しそうになる。
総兄は、依然、拳を強く握り締めながら、僕を見下ろして叫んだ。
「愛しいっていうのはなぁ、自分より相手の気持ちを大切にすることだろうが・・・。
お前が牧野を好きになる遥か前から、俺の方が牧野を愛しく思ってんだよ。
俺は牧野をずっと、見つめてきたんだ。
あいつは、ちっとも気付いてないが、それはそれでいいと思ってた。
・・・今までは、それでよかったんだ。」
「 ・・・?  」
「きっかけは、お前だ。 信じられねえだろうが、お前に嫉妬してる。 」
「 ・・そうなの?・・・ 」
「勝手に嫉妬して、牧野を手に入れたいと思い始めたんだよ。
牧野が好きだと素直に認めてやる。
いいか、だからあいつには近づくな。」

「総兄、僕だって簡単に引くつもりないよ。
同じ土俵にあがるよ。今度は、紳士らしくね・・・。
さっきのは、総兄の本心をあぶり出したかったから、でまかせ言っただけ。
僕は無理矢理、牧野さんを襲うつもりは無いよ。
信じるかどうかはお任せするけど・・・。」

「お前が相手?まだ学生のお前に勝負挑まれるとは思いもよらなかったな。
ふっ、まあ、いいぜ。 力づくはご法度、正々堂々と行くなら。
お前も全力出して、来いよ。 」

「何だよ、急に機嫌よくなって・・・。 まだ、勝負は分からないよ。
僕のためにだけ、牧野さん、お弁当作ってくれるらしいし。」

「ふんっ。スケベな魔の手を封印できれば、不戦勝も同然。 
今晩は、俺が来てやったんだから、飲み明かすとするか?」

「スケベなのは、自分の方でしょう・・・? ・・・ったく。」

総兄はキャビネを物色し、グラスを2つとスコッチを取り出し、今晩はここに泊まるからと言いながら機嫌よく座り込んだ。
現金にも、戦う相手のこの僕のグラスにスコッチを注ぎいれ、座れと手招きする。
何だよ~、急にやって来て、この流れは・・・。

「あの鈍感女の成熟を祈って、乾杯するぞ!!」

結局、僕たちは空が白み始めるまで牧野さんを肴にして飲み明かした。
不思議と総兄が、僕の兄らしく兄弟だと感じる時間だった。

つづく

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