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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 29
shinnjiteru29

29.

牧野をバイクに乗せ、後ろから腕を回されると、ようやく長かった夜が終ったのを実感した。
見慣れた風景に変わり、しばらくするとエンジン音が低くなる。
牧野がいうあいつのお城に到着した。
エンジンをかけたままバイクを停止し、両脚で固定してやると、牧野は思い切り脚を回して、颯爽とバイクから降りた。
タイミングも分かってきたじゃないか。

「西門さん、送ってくれてありがとうね。」
おいおい、さっきまで、俺が怒ってるのにビビッてたんじゃねえのかよ。
もう、満面の笑顔に戻ってる調子いい奴。
「おぅ。 ちゃんと、シャワー浴びてから、出勤しろよ。 」
「言われなくても、ちゃんと浴びるわよ!西門さんだって、酔いつぶれて眠ってたんだから、同じでしょ。」
「俺はいいの。この顔でカバーするから。」
「うわぁ、そういう自信満々なところ、可愛くないね。ちょっとは謙虚になりなさいよ。
口は災いの元、時期家元なんだから気をつけなさいよね。」

牧野の口は、どこからか潤滑油が注がれたみたいに快調に動く。

「ククッ、お前、朝っぱらから、よくそんなに表情をクルクル変えられるんだな。」
「そ・そんな顔してた? 自分ではわからないんだけど・・・。
道明寺も類も同じこと言うから、そうなんだろうね。」


司はいいとして、類か・・・。
そういえば、類にもチョコを渡すとか言ってたな。

牧野は類のことを特別な存在だと公言し続けている。
性別を超えた関係っていうのを、司だって指をくわえて見てるしかなかった。
類の方はどうだ?まだ思いは風化してないだろう。

昔から、興味の対象にはするどい観察力で、俺たちが気付きもしない指摘をしてきた類のことだ、俺の気持ちも薄々気付いてるだろうな。
中途半端のままじゃ、どっちにしろ類も納得するはずない。
小手先の企みはかえってもつれそうだ。
・・・真っ向からハートで勝負するか。

まずは、俺の存在感の植え付けだろう。
友達・師匠、それだけでない、さらに特別な存在感を意識させる。

実のところ、俺の胸中には、萌ゆる春のような春風が吹き始めている。

昔、司が盲目的にストレートにぶつかっていく求愛は、正直まぶしかったな。
永遠にマジな熱い思いなんて、俺には抱くことはできないと思いこんでた。


この風が、動き出した恋心というものか。


そんな新鮮な自分を薄笑いで見つめながら、一方でエールを送りたい気分だ。
これをあきらが知ったなら、俺らF4を変えた牧野だけあると賞嘆して祝いの酒でもふるまうだろうよ。
確かに、俺の眠っていた細胞が起き出し、真新しいシャツに腕を通して一仕事始めるような待ちきれない気持ちが湧いてくるのだが。

けど、やってることは、思考がダブつき、もたつく感じで格好つかねえな。
あいつを前にすると、百戦錬磨のテンポが刻めず、調子狂うのも事実。

これまで、柔らかな甘い獲物に近づく時は、まるで野生の狩りのように虎視眈々と注意深くありながら、心も足取りも羽根のように軽いものだった。
その先も後もない一時の戯れは、何の重さもない黄金の砂を掬っては指の間からサラサラこぼす遊びの繰り返しのようなものだった。

けど、牧野のリアクションを想像しようとすればするほど、不透明なベールがかかる。
どこか頭の中がくぐもって、重く鈍く感じる。

牧野は、獲物と呼ぶにはまるで色っぽさに欠ける。
獲物というのは、ゴージャスに見えるものでなくてはいけないだろ。
けれど、牧野を失うことを脳裏に想像するだけで、息が詰まりそうになる。
昨夜のようにじっとしていられず、眠れないイラついた時間に漂うのは苦痛で拷問のようだ。
勘弁願いたい。
コントロールできない歯痒さから逃れるには、あいつを掴むしかない。
もう、わかっている。
けど、本当にどこかで回避できなかったのか?・・・俺は恋愛の達人だろうが。


どうして、求める相手がこうもややこしい女、牧野なんだろうな。

今の俺の気持ちを、朝っぱらから妙に調子こいた牧野にクドクド話す気は毛頭ない。
伏線を用意する余裕も無く、面食らわせてしまうだろうと思いながら言った。

「俺、気が変わった。 久々、牧野の飯、食わせてもらうわ。」
「えっ?今から? あっ、まさか、シャワー覗こうと思ってたりする?」
そうくるか・・・。

「アホか、お前。」
「ま・・・い・いいけど、大したものないよ。」
それから、牧野はバタバタと目まぐるしく動いて、あっという間に朝飯を用意した。

小さな台所テーブルに、グリーンサラダと目玉焼きとトマトのプレート・こんがり焼けたトースト。
牧野は、湯気が出ているマグカップをテーブルに置きながら、まるで母親が子供を呼ぶように俺にいう。

「さあ、どうぞ! ホントに大したものないけど。 西門さん、グリーンサラダに何をかける?」
「・・・塩。」
「アジシオね・・・、いつもそうなの?」
「味塩?・・・よく知らねえけど、最近、沖縄の栄養塩とかいうヤツをお袋が勧めるからな。ミネラルが豊富らしいぜ、牧野もそっちの方がいいんじゃねえの?」
「そんな高価そうなもの。
うちには、アジシオといって、オトナから子供まで幅広い人気のロングラン商品、お馴染みの定番しかないけど、それで十分なの。今日は、我慢してね。」
「クッ、それでいいよ。」
なんでもいい、今朝は牧野と過ごしたいだけなのだから。
「そうそう、そういえば、うちのキャップが西門さんに挨拶しておきたいって言ってるんだ。
雑誌コーナー[男の美学]に原稿よせてくれることになったでしょ。 
天下のF4写真掲載本は売れるぞ!でかした、牧野!なんて、大喜びしてたし。
近いうちに、お稽古の合間に連れて行ってもいいかな?」
「俺が出向くわ。 類に紹介された会社だっただろ?」
「へ?わざわざ来てくれるの?」
「おぅ、牧野の直属の上司か? 
恩着せてやれ。 また、貸しができたな・・・ハハ。」
「そっちが勝手に来るって言うんだから、貸しにならないでしょうが。」
「牧野がどんな風にこき使われてるか、高みの見物させてもらうとする。
師匠として一応見ておかないとな。」
牧野は、訝しげな表情で、「そんなことしたら、私がキャップに怒られるかも・・・?」とかぶつぶつ独り言をいっている。

「それよりもさ、来週、区民センターで例の茶碗写真撮影予定なんだけど、あの古萩茶碗を眺める西門さんの横顔写真がいいんじゃないかな~と思うの。
そっちはどう?そこまで頼んじゃ悪いかな?でも、いいページになると思うんだけど。」
「いいぜ。それも、ついでに行ってやるよ。」
「ほんと?」
「・・・ これで、文句なしの貸しができたな。 お前、そんな間抜け面すんなって。」
「原稿を書いてくれるだけで、もう有難くってすっごい感謝なんだけど、本当にありがとうね、西門さん。
何度も言うけど、うちのコーナーは大した原稿料は出せないよ。」
「わかってるっつうの。 金のかからないおねだり考えとくから。」
「それ怖すぎだってば。・・・ったく、もう。」
そして、牧野は何度も覗くなと念を押しながら、バスルームに入っていった。

牧野の部屋は、1Kで最低限の家具しか置いてない。
平均的な女の一人暮らしより殺風景だろうが、ここが牧野の城だ。

俺らF4は、小さい頃から贅沢に慣らされて、学校もお稽古も全てが将来のための必要通過点、
与えられることしか知らないくせに、そこに居てやってるという風に、小さな籠の中でいばりくさって、大きな虚勢を張っていた。
牧野に出会う前の俺たちだ。

牧野の現実は変えられない。
変えられるとしたら、俺自身。

ふーっ、牧野のことを真剣に求めるという事は、大きな犠牲を覚悟しなければならないということだ。
堰を切って流れ出した水は、もう止められない。
何度も、自分に問いかけ、同じ答えにたどりついてきた。
改めて、俺はシャワーの音が響くこの部屋に誓った。
牧野は譲れない。
誰にも止められない。

戦う相手は、周でも類でも司でもない、己なんだ。

つづく

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