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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 30
shinnjiteru30

30.

「類、また髪の毛伸びたね。 もう、自分で切ってないんでしょ?
いつも、そうやって、ゴムでくくってるの?」
「うん、最近はね。」
「へぇ~」
「おかしい?」
「ううん、どんな髪型でも似合うけど、一段と目立ってカッコいい。 なんだか、モデルさんみたいで、
気がひけちゃうよ。」
「切ってくれる人、いなくなっちゃったから。 新しい人見つけるの、面倒だし。」

類は、花沢物産の中東経済拠点となるドバイ支店開設に向け、入社後わずか3年目にして、
首脳陣の一員となり、得意の語学力と卓越した先見の明を武器に、奔走している。
若干、頬がこそげて精悍になった感じがするのもそのせいか。

サラ髪を後頭部で束ね、綺麗な薄茶の瞳を惜しげもなく披露している類は、
オリエンタル・ダンディズムを感じさせ、今や世界中の富豪が集まる国、UAEの一流ホテルでさえ
決して引けをとることはないだろう。

「それで、どうなの?類の仕事のほうは? 」
「JAFZ(ジュベル・アル・フリーゾーン経済特区)は外資に寛容すぎるくらいだよ。
100%外資投資できるし、もともと花沢は欧州に基盤があるから、中東では取っ掛かりが付きやすい、商売はやりやすいよ。
けど、外は熱いし、すごい渋滞で、日本の環八の方が増し。
UAEには鉄道が無いんだ。だから、皆、そろって車通勤。
朝の渋滞だけは、勘弁してほしいんだけどね。」
「ずいぶん、日焼けしたね。」
「クスっ、そう? 牧野は、どうしてた?」
「私は、あいかわらずだよ。 
ホントに変わらずで何やってんだかね・・・へへ。 
周くんと遊んだり、西門さんにチョッカイかけられたり。」
「総二郎ね・・・。
牧野、あいかわらず、お酒飲んだら朝まで眠りこけちゃうんだ。
今朝、総二郎が不機嫌だった。」
「なんで、西門さんに怒られなきゃいけないのよ。
類、言っとくけど、何にも疚(やま)しい事してないですからね。
記憶無いのは、私だって一応反省してるし、これでも相手を選んで飲んでるつもりなんだよ。

西門さん、心配してくれるのはありがたいけど、師匠だからって口挟みすぎだよ。
今日なんかね、うちの会社に挨拶に来てくれて、

『牧野がいつもお世話になってます。よろしく頼みますね。』

って平身低頭言うもんだから、後からどういう関係なのかってキャップに要らぬ詮索されて参ったんだから。」

「総二郎、頑張ってるじゃん・・・。」
「あのね、西門さんじゃなくて私が頑張ってるんだってば。」

今日3時頃、西門さんから挨拶は今日でいいかと電話があった。
朝、言ってた挨拶を実行してくれると。

応接室にドーンと座り込んで、まるで私の保護者のような挨拶をした西門さん。
キャップには単なる知人と紹介してたから、あんぐりと口を開けて驚いてたよ。
涼しげな表情の西門さんと私の顔を交互に見たあと、美術関係中心の出版会社である我が社を売り込みまくるキャップに、西門さんは色々と快諾してたっけ。

その後、過去の投稿資料やコーナーの原稿料について説明し始めたキャップに、そんな話はいいから少し牧野を借りるといい、私を外へ連れ出した。

待たせてあったリモに押し込まれて、連れて行かれたのは代々木公園。
公園に入ると、のんびり散歩してる親子連れや練習中の陸上選手なんかがいて、オフィス街と違ったさわやかな空気で、なんだか気持ちよくなったけどさ、あれって拉致でしょ。

まさか西門さんが自販機で暖かい缶コーヒーを買うなんて、珍しいこともあるもんだった。
結局、二人でベンチ座って温かい缶コーヒー啜って、会社に戻った。

一体、何がしたかったのかわからないけど、なんだか、昔の道明寺みたいにちょっと強引で懐かしい感じがした。



「そうだ、今日は類に気持ちを込めたVチョコを渡したかったんだ。
はい、これ。」
「サンキュー」
「たくさんもらってると思うけど、一応、私の手作りチョコだからね。」
類が白いリボンをほどき、ピンクの箱をあけると、丸い小さなボール型したトリュフが顔を出した。
そのうちの一つをつまんで、口にポーンと放り込んだ類。
「上手にできたね、おいしいよ。」
「頑張ったんだよ。 毎年のことだけどさ、類にはお世話になってるもん。」
「これも?」
もう一つのプレゼントを手にして、首をかしげて聞いてくる。
「うん。気に入ってくれたらいいけど。」

ベージュにうっすら黄緑が混ざったような包装紙をあけると、シンプルな白い箱が出てきた。
中のものを取り出す類。

「これ、ストラップ?」
そのストラップは1センチくらいの銀で作られた音符・トーン記号・音符・ヘ音記号が順番に連らなっていて、 その末端には縦に2センチくらいの深緑色した石がクロス型に無骨に削られてくっついている。

「うん。 仕事で知り合ったギャラリーのオーナーさんに勧められた芸術家さんの作品なの。
20代の若いアーティストさんで、こういった銀と鉱石を組み合わせて斬新なアクセサリーを作ってるのよ。
その石はね、マカライト。
本人の窮地を救ったりして、危険から守ってくれる力があるらしいよ。
仕事運が上がるってさ。」
「それは、助かるね。ありがとう、まきの。」
「実は、西門さんのとデザイン違いのおそろいなんだ。
西門さんのは音符とかじゃなくて、月とか本がぶら下がってるの。」
「総二郎と同じ?」
「うん、私が気に入ったものをあげたかったから、結局、同じになっちゃった。
選ぶのが、面倒くさくなったわけじゃないからね。別に構わないよね?」
「ククッ、そう。 これ見て、総二郎なんて言うだろう?・・・今度、総二郎に会う楽しみができた。」
「えっ? 月と本のデザインの方がよかったの?」
「クスッ、俺は、こっちの方がいい。 総二郎が換えてって言っても、変えてやんない。
大事にするよ。 サンキュー。」
「ええっ?どちらか選べないくらい、どっちもいいんだよ。 西門さんのイメージはあっちで、類はこっちだって思うんだけど。西門さんも、喜んでくれたし・・・。」
「まきのは本当にあいかわらずだね。 なんだか、日本に帰ってきたって感じる。
まきのが変わらないのは、嬉しいよ。」

嬉しそうに私を見つめる類に、それがどういう意味か図りかねて、言葉を探していた時、私の携帯から呼び出し音が聞こえた。

Trururururururururru・・・・

発信元は西門 周三朗。

  ピッ

「周くん?」
「牧野さん、まだ仕事中ですか? 今、話せます?」
周くんの後ろはガヤガヤしていて、何かにぎやかな場所にいる様子。
「うん、大丈夫。 仕事は終って、今、花沢類とご飯食べてる。
  昨日はありがとうね。すっごく楽しかったのに、最後に迷惑かけちゃったね・・・。」
「いいんですよ。僕も、いろんな牧野さんが見れて嬉しかったから。」
「///色んなって・・・。」
「今、こっちも飲み会中なんですけど、来週末、皆で屋内スノボーしに行くことになって、一緒にどうかと思って電話しました。 
実は、他校の彼女や兄弟を連れてくる奴らが、僕にも誰か誘えってうるさいんで・・・ハハハ。
メンバーはごちゃ混ぜって感じなんで、違和感ないと思いますけど、どうです?」
「いやぁ~、私、スノボー1回しかやったことないし・・・。
お友達の彼女は学生でしょ?私なんか行ったら周くんが可哀想だよ・・・。」
「そんなの、全然大丈夫ですよ。 なんなら、類さんも誘いましょうか?電話代わってください。」
いつものストレートな物言いに弱い私は、類に携帯を差し出した。

「もしもし・・・」
「花沢さんですか?僕、周です、西門です。 ご無沙汰してます。」
「うん、ホントご無沙汰。 」

「牧野さんをスノボーに誘ってるんですが、ちょっと警戒されちゃったかな。
実は、総兄と勝負してるんです、牧野さんをめぐって・・・。 
・・・。
忙しいと思いますが、来週末、類さんも一緒にスノボーどうです?
屋内なんで、そんなに時間はかからないと思いますよ。」
「ごめん。 来週末は仕事が入ってて、ムリ。
でも、牧野を連れて行ってやってよ。」

類は、電話を切るなり、折角だから行ってくれば?と何気に言う。

「牧野は牧野のままでいいんだけど、自分のことがいつもおざなりでしょ、俺からのアドバイスだと思って。」
「へ?だからって、どうしてスノボーするのよ。」
「スポーツだから、いいんじゃないの。」
「わけわからないよ。」
「どんどん外に出て、遊んでくれば?」
「ムスッ、らしくない・・・。何か企んでるでしょ?」
「別に何も。 スノボーってことは雪がいっぱいか・・・。
昔、まきのと寒い中、よく散歩したね。
あの和菓子屋、まだあるんでしょ? 懐かしいな。」

あの頃、マフラーに手袋を身につけ、歩くのを好んだ類。
お互い白い息を吐きながらも、類と話しながら歩くと、冬の道も大した苦ではなかった。

目の前の類が微かに微笑むと、少しのぞいた白い歯が、日焼けした肌に映え一層精悍さを感じさせた。

「・・・じゃ、類も一緒に行く?」
「まきのが俺の分も遊んどいで。 」



類の瞳が、少し寂しそうに揺れて見えた。
今の類には、目前の大プロジェクトの頂きに向かって、全力で上り詰めなければならない責任がある。
類自身が、望み挑み始めた道だから、私はただこうして応援するしかできない。
こんなプレゼントなんて、子供だましだけど。

知人と語らい、家族と食事をし、仕事の疲れをベッドで癒す。
当たり前だと思える生活のすぐ横で、好機を逃すまいと目をギラつかせ片時も休まない非人間的サイクルで成り立つ世界がある。
経済は刻々と変化し前門の虎、後門の狼のように、至る所に深い落とし穴が潜んでいて、一寸先は闇。
道明寺がNYでそうであったように、何度もくぐりぬけ成功を重ねると、有頂天外な喜びに打たれ痺れてしまうのは、回避できない症状に過ぎないかもしれない。

類も・・・、類さえも変わってしまう?

私は、少し精悍になった類が遠くに行ってしまわないように願いながら、見つめた。


「まきの、帰りは少し歩こう。」

ガラス玉のような薄茶の瞳で、まるで静かな水面を伝って響くような声色。
いつだって、私を和ませてくれる。

「うん。 絶対ね。」

私は、とびきりの笑顔で類に答えた。

つづく

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