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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 3
shinnjiteru3

3.

時計の針が、刻々と明日を迎える時間に近づいている。
こんな遅くに大男を二人も家に上がらせる私を近所の人はどう見ているだろうか・・・。

もし優紀が同じことをしていたら、どういうつもりか即刻相手の男に問いただしてしまうに決まってる。

でも、こうして限られた空間に異性がいると、少なからず穏やかな心になれることに気付いたのは最近のこと。

私の中に残っている貞操感が弱々しく黄色信号を灯していることに、かろうじてまだ道明寺とのつながりを感じ安心しているのかもしれない。
私は道明寺の女なのだ!と誰かがナレーターのように話す。
チカチカ光る黄色い光の中に、楽しかった思い出の一コマがスライドバックし、私は目を見開いて精一杯思い出そうとする。
くすぶっている不安がほんの少しだけ忘れられるひと時だ。

もちろん異性といっても、F4以外を部屋へ招き入れたこともないし、そのつもりもない。
ここにいる二人と今日はいないもう一人の男は、私の恋人の親友であり私の大事な友達だから特別なのだ。

「おい、類、ベッドで寝るなよ!一応、牧野も女なんだからな!」
「だって、そこ、総二郎が座ってるから狭いんだもん。」
「一応女で悪かったわね。 あんた達が大きすぎるんじゃない・・・。」
「牧野、お前も女なんだから俺らでもちっとは警戒しろ!」
「なんで?だって、友達じゃない。」
「もしかして豹変するかも・・・とか少しも思わないわけ?」
「全然、思わないもん。」 
ちょっとだけなら、嘘も方便。平然と言い返した。

西門さんは、考えこんだかと思うとすっと立ち上がり、安物の長脚テーブルに急須を置いたばかりの私の腕をとった。
そして、ニヤリと口門を上げながら、その長い人差し指でツツーッと手の甲から肘の内側までソロリとなぞった。

「これでも何も感じない??」 憎たらしいほど整った顔を近づけて挑発するやつ・・・。
「ひえ~、ちょ、ちょっと、何するのよ~!にしかど~!!」
「総二郎、まきのが嫌がってるからあっち行って!」
ベッドでもう眠っているかと思っていた類が、顔だけこっちに向けていた。
「おい、類がそんなんだから牧野がおかしくなるんじゃないのかよ! 友達だったら、もっと牧野のこと考えてやれよな。」
「うん、考えてるよ。」
「はい?ちょっと、類まで何を“うん“なんて頷くわけ?あの~、私のことは大丈夫ですからご心配なく・・・。」
「お?これは、ギメの写真集か・・・。」


テーブルの上に置いてあった写真集に目をやった西門さんは、手にとっておもむろにパラパラとページをめくり始めた。
話題が反れたことにほっと安堵し、今回取り上げている作品のために類に頼んだことや現在の進行状況を一気に話した。

「喜多川歌麿の絵は、色っぽいよな~。多色刷りで濃厚な色料を使うから、生々しく見えるんだ。モデルも細い体つきで艶かしいだろうが・・・?」
「西門さんらしい意見だよね・・・。」
「牧野、お前は分かってない。
何故、貴族の文化だった浮世絵が江戸時代に町人文化へと広がったか想像できるか? 
それはな、俺が思うに、いつの時代も異性への憧れが不変だからだ。 歌麿は、繊細な男女の機微や心理描写を上手く表現するのに長けてた。
だから、爆発的に人気が出たんだ。」
「へぇ~。」
「なんだ?その気の抜けた返事は。お前なぁ、雑誌の編集者だろうが、ちっとは勉強しろ!」
そういって、西門さんは私の頭を大きな手で押さえ込んだ。

西門さんには、以前も茶道具の一つ茶筅について色々教えてもらった。
その時もその知識の正確さと造詣の深さに感心したものだ。

さすが西門流時期家元だと感嘆しつつも、なんだか美術品全般における博識ぶりがまぶしくて、お茶だけの世界に留まるのがもったいなく感じた。

「そうだ、思い出した。 西門さんにお願いがあるんだった。
その西門さんの力を貸してほしいの・・・。私の雑誌コーナー[男の美学]に原稿を書いて欲しいの。できれば、お気に入りの茶碗について・・・。どうかな?」
「原稿?」
片方の眉毛を持ち上げ、ジロリとこちらを見る西門さん。

生き生きと美術品について語る西門さんの姿が心に留まっていた私は、会社でふと原稿依頼を思いついたのだ。

「そう、大して原稿料出せないんだけど、西門さんの名前と写真が出るから良い宣伝にもなると思うよ。 ね?お願い!」
「考えといてやるよ。牧野の頼みだからな・・・。」

少し後方に頭を反らして私を見下ろす西門さんの瞳が、蛍光灯に照らされて銀色に光って見えた。

つづく

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