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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 33
shinnjiteru33

33.

その日、私は二人分のお弁当を作った。
内容は、小学生が遠足に持っていくような、食べやすくておいしそうに見えて、そして母親が我が子のために愛情を込めて作るような、蓋を開けた時の感動が残るようなそんな彩りを心がけた。

スノボづいてる私のために、ボードを一緒に選んでくれるという周くんへ何かしてあげたくて、そういえば一緒に動物園へお弁当を持って行きたいって言っていたのを思い出したからだ。

周くんも大きな実験が一段落ついて、ちょうどいい動物園日和らしい。

二人で電車に乗って、都心から少し離れた動物園にやってきた。
たくさんのにぎやかな親子連れが、次々にゲートをくぐっていく。
おばあちゃんとおじいちゃんとお孫さん、三人で来ている微笑ましい姿もある。
中には中学生じゃないの?というようなおマセなカップルもいたりして、その中で私たちは、ありきたりのカップルに見えるかもと思った。

「見て見て、周くん、カバの赤ちゃんじゃない?お母さんに、引っ付いてて、かわいい~。本当に、ミニチュアだよね・・・蹴飛ばされないのかな?」
「目が横についてるから、お互いちゃんと見えてるんじゃない?」
すると、急に方向転換した母親の左脚が赤ちゃんカバの鼻ッ先にドンと当たり、出来立てのゴムのような可愛い脚がふらついた。

「あいつら、どんくせ・・・。ククッ」
人懐っこい笑顔を向ける周くんは、とても楽しそうに笑っていて、まるで小学生の男の子のように無邪気な表情を見せる。
「でも、何やっても可愛いじゃん。フフッ。」
私も、なんだか楽しくなって、周くんに笑顔を向けた。

園には、たくさんの動物がいて、久しぶりに来るのもいいものだと思った。

「鷲(わし)って、こんなに大きかったっけ?」
目の前には、私がしゃがんだくらいの大きさの怖そうな鳥が一匹、バーの上でじっとしている。
「あいつは、肉食の猛禽類でしょ。鳥の中の王様だから、ヨーロッパで家の紋章に出てくる。確か、ハプスブルク家もそうだったと思うよ。」
「うわっ、何か吐き出したよ。」
「消化できなかった小骨とかだ。」
「へぇ~、周くん、良く知ってるのね。」
「小さい時、図鑑っ子だったのが初めて役に立ったかも・・・ハッハ。」

目を細めて笑う周くんにつられ、私も自然に微笑み返す。


ふと見ると、4歳くらいの男の子が一人ぽっちで今にも泣き出しそうな顔して、ウロウロしている。
どうやら、迷子のようだ。

「お母さんとはぐれたの?」
と聞くと、頷きながら大粒の涙をこぼし始めた。

「ヒック・・みいちゃんと、ママがどこかに行ったの・・・ック・・。」
「ねえ、お姉ちゃんが探してあげるから、僕のお名前教えてくれる?」
「うん・・・みはしけんご。」
「けんごくん?」
けんごくんというその男の子は大きく頷いた。

迷子センターに連れて行こうと立ち上がり、周くんを見上げると、周くんは両手を拡声器代わりに口に当て、大声で叫び出した。


「すみません~、けんごくんのお母さんはいらっしゃいませんか?
けんごくんのお母さんいらっしゃいませんか~?迷子になってますよ~。」

とても大きな声で周りの人に呼びかけている。
ちょっと、びっくりした。
さすがの私も、大声で呼びかけるのは気恥ずかしい。
躊躇無く、辺りをウロウロしながら呼びかけている周くんの声が届いたのか、向こうの方から若い母親とお姉ちゃんらしき女の子が小走りに向かってきた。

けんごくんはお母さんの元へ駆け出して、太腿に抱きつき泣いている。
お母さんは何度も私たちにお辞儀し、けんごくんとしっかり手をつないで行ってしまった。


「良かった・・・。」
けんごくん達の後姿を眺めながら、ポツリとこぼす周くんの横顔を感心して眺めていると、今度は腑抜けたように見つめていた私へ向かってもう一度、「良かったね・・・。」って、さわやかな笑顔を見せる。

そんな周くんがまぶしくて、胸がキュンとなって、顔が熱くなった。

「///あ・あのさ、周くん、さっき、格好よかったよ。」
「いつ?」
「大声出してる時。」
「へ?そんなのが好きなんですか?牧野さん。」
「ああいうの、いいよ・・・。」

それから、私たちは木陰にレジャー・シートを敷いて、二人で腰をおろした。
「周くんのために作ったお弁当だから、残さず食べてね」と持参したお弁当の蓋を開ける。

「うわっ、お弁当だ。」
「そりゃ、そうだわよ。クスッ。」
「何、これ?」
「それは、えのき茸のベーコン巻きよ。その横は、ちくわの中に胡瓜が入ってるでしょ?」
「ホントだ、スゲーッ。」
「庶民のお弁当はこんなもんです。」

あちらでもこちらでもシートを広げ、色とりどりのお弁当を並べて、皆が休日の午後を楽しんでいられる場所だ。
どの顔も皆、この穏やかな光景を胸に刻むように、時折遠目で空を見上げているように見える。


「牧野さん、ごちそうさま。」
「どういたしまして。」
「いい天気ですよね・・・僕、眠くなっちゃったな。あの、膝枕なんて、ダメかな?」
首を傾けて聞いてくる周くん。

「ちょ・それは・・・」

周くんは思いついたように、ポケットへ手をやって二枚のコインを取り出した。
そして、「見ててね。」というと、二枚のコインを握り、クルリと手首を回し、次開いた時には、コインは二枚ともどこかに消えていた。

「うわっ、すごい。」

そんなマジックを何度かして、楽しませてくれた後、コインが左右どちらの手に入っているか当ててみてという。
もし、外れたら膝枕ってのはどう?と・・・。
勝負に乗った。

周くんは確かに二枚のコインが手の中にあることを見せると、5本のきれいな指で隠すように、しっかり拳を握った。
左右の固く閉じられた拳を何度もクロスさせて、どちらか選べという。

「う~ん、こっち。」
わたしは、向かって右側のこぶしをちょこんとつついて言った。

そっと開かれた手を覗き込むと、残念ながらはずれ。
もう一方の手をひらくと、そこには三枚のコインが入っていた。
いつのまにもう一枚増えてるの?

「クスッ」
してやったり顔の周くんの笑顔がかわいい。・・・完敗だよ。

「いいよ、膝枕。」
「やりぃ~。」

「しつれいしま~す。」と嬉しそうに頭を乗っける周くんは、早速目を閉じて昼寝をしようというのか。


遠くに聞こえる甲高い鳥の鳴き声と子供たちのかけ声がほどよいBGMとなり、木陰をより心地よくさせて、ここだけ世界から切り取られた楽園なのではと間違えそうになる。

周くんの寝顔を見下ろしていると、こちらまで平和な眠りの世界にいるようで優しい気持ちに浸っている自分に気付いた。

この男(ヒト)の髪の毛を優しく撫で続ければ、この平和が永遠に続くような夢見心地がした。

しばらく寝顔をながめてから、持て余した手で3枚のコインをどうやったら消えるのか遊んでみる。
「やってみる?」

眠っているはずの周くんが、膝の上からおもむろに声をかけてきた。
コインを握って、両手を差し出す。

「じゃ、どっち?」
「右」
「はずれ~」

「じゃ、どっち?」
「右」
「あたり~」

なんて、繰り返し遊んだ後、次当ったら何もらおうかな~?なんてセリフを吐く周くん。

「じゃ、どっち?」
「う~ん、左?」
「はずれ~」
「ゲッ、ちくしょう。」

悔しそうな周くんも可愛くて、そっと髪の毛を撫でてあげると、目が合って見つめ合う形になる。
周くんの瞳は太陽の光を受け、透き通った紅茶色で吸い込まれそうだ。
ゆっくりと周くんの左手が私の頬に触れ、髪の毛をくすぐった。

カサリと耳元で音がする。
頬に感じる指先に、ドキリと心臓が音をたてて、固まってしまった私。

「牧野さん・・・、僕。」

「・・・」

すると、一瞬目をつぶり、振り払うように起き上がった周くんは、左手に小さな葉っぱを握っていて、「付いてました、これ。」と眉を動かせ言い、そのまま立ち上がった。

ああ、びっくりした。
思わず緊張してしまったよ。

シートをたたみ手渡してくれた周くんは、微笑みながらも、ずっと私から視線を逸らさなかった。

そのあと、連れて行ってもらったスポーツ用品店で、初心者用スノボーセットを購入し、あまりにはしゃぐ私を見て、周くんはお試しにと、リモを呼び、室内ゲレンデ場に連れて行ってくれた。

ナイターの時間が始まるところで、私たちと同じように今から滑りますというカップルもチラホラいる中、初めて自分のボードで滑るのは最上の気分だった。

「周くん、やっぱり買ってよかったよ~、最高だね。」
私は、思い切りの笑顔を向ける。

「牧野さんのその笑顔、僕、大好きです。」

つづく

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