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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 34
shinnjiteru34

34.

時計の針はカチカチ動き続け、既に待ち合わせの時間15分前だ。
昨夜は、西門さんが茶器を見つめるカットの大量な写真を前に、どの写真を使用するかカメラマンと話し合い、考えていたイメージ通りにページが仕上がりそうなので、調子よくズルズルと遅くまでページ・レイアウトを練っていた。

西門さんの茶器を見つめる横顔は、芸術品を愛する眼差しいっぱいに気高い。
それは、イケメン茶人として、多くの読者の心を掴むことだろう。

そして、師事する月日とともに私が感じてきたイメージ通り、宿命を享受し、自らを更なる高みに置こうと弛まぬ努力を続ける健気な姿も映し出していた。

ピンポーン♪

来た!

あわてて、カバンを掴み、歩きやすそうな靴を取り出した。

「うっす!」
「お早う!西門さん。」
「行くか。」
「うん!」
カンカンと階段を下りたそこには、西門さんの大きなバイク。
メットを渡され、ややあって、エンジン音が大きく響き始めた。

そっと、西門さんの腰に手を回して、振り落とされないよう力を入れる。
お互いのジャケット越しに、弾力が伝わり始めると、ほんの少しさらに力を加えた。

植物系にバニラがかった甘酸っぱい香りが、絶え間なく前方から風にのり、私の体を薄く包み込んでは消えていく。
楽しくてワクワクとした気持ちが口からあふれそうになるのを、大きな背中に頬をペタッと擦り付けて、ぐっとこらえるんだ。

今日は、長時間こうしていられると思うと、口元が緩んでくるよ。
信号待ちでは、気をつけないと。

途中のICで休憩を入れながら、11時には水戸の梅園に到着した。
日本三公園の一つと知れた景勝地だけあって、その施設の豊かさに圧倒される。

梅の見頃を逃すまいと、多くの人でにぎわっており、車もいっぱいだ。
こんな時、二輪車ってのは、特権を持つかのように道も駐車場も足止め知らず。
私達の足取りは軽く、咲き誇る梅の香りに釣られるように園に入場した。

それこそ百花繚乱。
右も左も梅だらけ。
白・薄桃・桃・濃桃と絶妙なグラデーションで重なり合って、なんともいえない甘い梅の香りがいっぱい広がっている。

緩やかに蛇行する歩道に沿って、梅園はどこまでも続いているように見えた。
一つ一つは小さく地味と言える花なのに、こんなにたくさん一斉開花すると、豪華で近寄りがたい印象に変わってしまう。

「西門さん、梅の花言葉て何?」
「高潔・上品。・・・あと、気品とか。」
「うん、わかるよ、そんな感じするよね~。」
「まあ、牧野とは正反対だな。」
「どうせ私はね・・・。」

「ふっ、牧野が品がないって言ってるんじゃないぜ。
お前は、どちらかというと夏の花っぽいもんな。
太陽に向かって咲くたくましい花だ。」

「・・・向日葵ね、うん。
西門さんを花に例えるとなんだろうなぁ~。」
「おいおい、止めてくれよ。男を花に例える気か。」
「う~ん、西門さんはね、菖蒲・・・?」
「それは、端午の節句からくるイメージじゃねえの?」
「はははっ、そっか・・・。」

ふと見ると、とっても可憐な梅の花が視界に飛び込んできた。
「可愛い~あの梅、花弁の半分がピンクで半分が白になってる。」
「春日野・・・だって。」
「春日野?」

白いタグにそう小さく表記されていた。
昔から日本人にこよなく愛され、俳句にも詠まれた親しみ深い花だけあって、雅(みやび)な名がつけられている。
御所梅・高梅・白難波・大盃・道知辺とその謂れを興味深く想像させる名ばかりだ。

「あれ?“思いの儘(まま)”?
西門さん、あの梅の名前、“思いの儘”だって。
クスッ、ちょっと、今までの名前と違うネーミングだね。」
「“思いの儘“?マジ?」
「うん。ほら、あそこの五分咲きの梅。誰が、名付けたのかな?」
指差す方向にグッと身を寄せ、目を細める西門さん。
「そりゃ、最初に見つけた人なんじゃねえの?それか、品種改良した人か。」
「願いを込めたんだろうね、自由で詩的な感じがするね。」
「おう、確かに羨ましい名前だな。」



私たちは、その名の由来を想像し、思い思いの感想を話しながら、早春の香りいっぱいの道をくねくね歩いていった。
すると、前方に紫の幕が張られ、目が覚めるように真っ赤な和傘の下、和服姿の人達が野点を行っていた。
咲き誇る梅園の中、絵のような光景に、遠くから眺めているだけでも優雅さに魅せられる。

四季折々の風情をこうして楽しむことで、日本の文化がこんなにも豊かになり、世界に誇れるチャーミングな特徴を育んできたわけで、
七夕・秋のお月見・紅葉狩りなど、行事を数えると結構な数に上る。
夏には、朝顔を愛でながらの朝茶という茶会もあるらしい。
出版社で働き初めてラッキーなことは、日本文化に触れる機会が増え、今まで見過ごしてきたその素晴らしさを再確認出来たことだと思う。

その時、西門さんに気付いた開催者が声をかけてきたのだ。


「総二郎さんじゃないですか?どうも、ご無沙汰しております。」
「あっ、こんにちは。今日はそちらの野点の日だったのですか?」

流派は違えど、親交のある流派の春慶の祝い事に出くわした。
「宜しかったら、総二郎さんも一服いかがですか?
隣のお嬢様もどうぞ。」

ささっと手招きされ、戸惑いつつも丁度喉も渇いた頃合だ。
けれども、西門さんは茶道会では名が知られた人物であり、親交のある流派ともなれば、どこでどんな噂が立つか想像するだけで、身が縮こまってしまう。


平服の私たちは明らかに飛び込みのいでたちで、男女二人して偕楽園へ遊びに来ていたと思われて当然なのだから。
そういう噂は早く広まるもので、まかり間違ってお家元の耳に入ったりすれば、西門家への恩を仇で返してしまうのではと心配にもなる。
男と言えども、やはり、生き方まで含んだ総合芸術の時期家元なのだし、ゴシップは無い方がいい。
まだまだ閉鎖的な世界だという常識は心得ているつもりだ。


「西門さん・・・。」
私は、肘をつまんで、ぐいっとこっちに引っ張った。

「ん?」
「ねえ、止めとこうよ。」
「なんで?いいじゃん、一服くらい。」
「だって、こんなに関係者がいるんだよ。変な噂でも立ったら、どうするのよ。」
「俺は、構わないぜ。」
「構わないことないでしょうが。自分の立場わかってるでしょ。」
「牧野よりずっとわかってるつもりだけど、それがどうした?
見せつけてやろうぜ。」


驚いたことに、西門さんはおもむろに私の右手を取った。
そのまま手を握りながら、朱色の毛氈が引かれた席まで行くと、先客に一礼し堂々と腰掛けたので、私も引きづられるように着席する。

座ってもなお、私の手を離さない西門さんを横から眺めてみるも、いつものニヤケた口元が見当たらない。
代わりに視線は、既にお点前に向かっている。
けれど、まずいよね・・・この手。

手をつないでるんだよ、私達。

人に聞こえるのを憚って、静かに手を払おうとしても、かえってギュッと握り返してくる不可解な行動。

ちょっと、西門さん、どういうつもり???
お茶をいただく番が近づいて、ようやく力を緩め解放してくれた。

駐車場に戻る道々、さっきのはどういうつもりか問う私に、「減るもんじゃなし、いいじゃないか。」とまるで類のように、飄々と言い続ける西門さん。
口笛までも飛び出した。

その後、私たちが向かった食事処は、もちろん水戸に来たからにはマストでしょ!という私の意向で、
和食のお店へレッツラGO。
丼の上に、たっぷり納豆が載ったものを注文する私に、西門さんが笑う。

「お前は、全く色気ねえな・・・。」
「西門さんの前で、今さら気取っても仕方ないし。」
「そうか・・・。俺は、全然、牧野に意識されてねえってこと?」
「あたり前じゃない!」

「マジ?俺は、意識してんだけどな。」
ニヤリと口角を上げるいつもの西門さんだ。

「はいはい。」
なんだかホッとして、乱暴に言い返した。


「牧野、あのな・・・俺は・・牧野のこと・・。」
話の途中で真横を向き、頬杖をついて考え込む西門さん。

「私のこと・・・?」
「いや//、まあ、今はいいわ。」

丁度そこへ料理が運ばれてきて、箸を手に取った西門さんの前に置かれたのはお蕎麦。

どうして、名物の納豆を頼まないのかまったくこの男の気が知れない。

つづく

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