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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 35
shinnjiteru35

35.

水戸から東京へ戻り、そのままバイクで三軒茶屋の茶道具屋さんに連れて行かれた。
ショウ・ウインドウのど真ん中には、雪が降り積もったような白塗りの志野茶碗が高台に飾られている。

「いらっしゃいませ。西門様、どうもお世話になっております。」
「こちらこそ。」
「例のもの、ご用意しておりますよ。」

店主はレジの奥の数ある棚の一つを引いて、白い小箱を取り出した。
「そのままで。」
「そうですか・・・。ご確認もよろしいですか?」
無言で頷く西門さんに応えて、ご主人も小さく微笑んで頷き返した。

受け取った小箱をジャケットのポケットに突っ込み、店を出ようとする西門さんにあわてて小走りで引っ付いていった。

夕食に西門さんが連れて行ってくれたお店は、やはり高級そうなお店だった。

「また高そうなお店だけど、こんなカジュアルな格好でいいのかな?」
「大丈夫だろ。」
そう言った西門さんは私の腰に手を回し、押し出すように歩き始めた。

「ちょっと、何、そのやらしい手。」
「いいじゃん、減るもんでもなし。」
「ちょ、ちょっとぉ~。」
「「「いらっしゃいませ~」」」



案内された部屋は、10畳くらいの和室で、黒檀の和テーブルと青紫色した分厚い座布団が目を引く。

ややあって、伸びをする西門さんに運転をねぎらうと、
「結構、楽しめた・・・。牧野が、必死でしがみつくからな、フッ。」
首を傾け、からかうようにニヤリと口角をあげて言う。

「お前さ、胸でかくなったんじゃね?」
「は?///か・かわんないわよ!西門さんが、危なっかしい運転するから仕方ないでしょ!」
「おいおい、これでも、無事故な優良ドライバーなんだぜ。
けど、今日は久しぶりの長時間運転で、肩凝ったわ。風呂入りてえ。
牧野に背中流してもらおうか・・・、責任取ってくれる?」
首を傾けたまま、普段のトーンでサラリと言うこの遊び人風の男をどうしてくれるか。

「西門さん!今日はおかしいんじゃない。悪乗りし過ぎ!
相手が私じゃなかったら、セクハラで訴えられるよ。」

「別に訴えられねえし・・・。
それに、俺はちゃんと言う相手選んでるから。
牧野だから、言ってんだぜ。」

「やっぱり、おかしいよ今日。」

「そうそう、これさっき取ってきたやつ。
一応、チョコのお返し。開けてみぃ。」


さっきのお店で受け取った物だ。私にホワイト・デーの贈り物?
その白い箱を手に取り、蓋を開けると、艶のあるティッシュ・ペーパーが現れ、ゆっくりめくってみると、
それは陶器製の黄色い兎だった。
掌にチョコンとのっけてみた。

「かわいい~!ありがとう。」
じーっと静かに見守っていた西門さんに笑顔を向けると、目を細めて微笑み返される。

「これ、もしかして・・・。」
「そう、炉用の香合。
中に練り香を入れて飾ったりしてるの、見たことあるだろ?」
「うん。けど、さっきお茶道具屋さんでもらっていたから、わかったのかも。
だって、ピルとかアクセサリー入れって言われても可笑しくないよ。」

「フッ、これ、見つけた時、牧野みたいだなと思ってな・・・。
白い兎だったんだけど、お前はどっちかと言うとそういう明るい黄色のイメージだから、店主に聞いてみたんだ。」
「うそっ、わざわざ注文してくれたの?」


「ちょっと、ここに置いてみ。」
西門さんは、顎で黒檀のテーブルを指している。
その小さな黄色い兎をそっとテーブルに載せた。
「ほら、やっぱり牧野みたいだろ?」
「そう??」
「大きな目を見開いて、小っこいくせにピョンピョン飛び回るところとか。」
「クスッ、そうかもね・・・。ありがとう、西門さん。」

「牧野。」
「ふうん?」
「あのさ、牧野は俺とちゃんと付き合う気ない?」
「・・・?・・・」


真っ直ぐこちらを見つめて言う西門さんの口元は、ちっともにやけてなくて、真剣な表情だ。
静かな緊張感を伴い、威圧というより不安そうな色さえ浮かべていた。

どういうことだろう・・・。
付き合うっていうのは、男女の間柄ということ・・・でしょ?

笑えない悪乗りの続きか、それとも、血迷ってるのか、それとも・・・。
西門さんのゴージャスな女関係は、さんざん見たり聞いたりしてきて、道明寺とウブな私はいつも子供扱いだった。

所詮、結婚相手は自分で選べないのだからと一つトーンを下げて言った西門さんもよく覚えている。

今さら・・・。

「まっ、考えとけよ。なっ?」
その後、ずらりと並べられた高級な懐石料理は、どれもスポンジを噛んでいたようであまりよく覚えていない。

アパートに送ってもらい、長いフル・デート(?)やらの終わりが近づいた。

「はい、メット。
今日は、色々、ありがとう。
それでさ・・・、さっきの話なんだけど、悪い冗談でしょ?」
バイクに跨いだままの西門さんへ、メットを返しながら言った。

「ンッ、そりゃそう思うだろうな。
俺だって、自分で言っときながら、マジかよって思ってんだから・・・。」
「西門さん・・・。」

西門さんは、メットをはずし、その黒いサラ髪を無造作に掻き上げると身体をこっちに向けた。

「牧野、マジで俺と付き合わねえ?」

その瞳は、真剣で真っ直ぐに私だけに注がれていて、さっきよりずっと強く私の心に届いた。
微かに揺れ動いたその瞳は、電灯の下で銀色めいて、ドキリとさせる。

うそでしょ・・・。

今まで、そんな素振り見せなかったじゃない・・・。

なんで急にそんなことを・・・。

我が身にふりかかった思いもよらない出来事が現実味を帯び出した。
ようやく対処しようと回転を始めるものの、混乱が広がっていくだけで答えを引っ張りだせる心境じゃないよ。
いつになったら答えを出せる出せないの返事さえ、考えられる心境じゃあない。


「ククッ、お前、面白い顔してんな。」
「っへ??」
「じゃ、またな。お前もちゃんと、風呂入れよ。」

そう言い、ふわっと表情を和らかくさせたかと思うと、持ち上げたメットをゆっくり被った。
銀色の細長い光りの尾を残しながら、あの瞳がメットの中に消えてしまった。
「見ててやるから、早く部屋に入れ。」

「う・うん。」

どうにか出てきた言葉はたったそれだけ。


西門さんは、私がドアノブに手をかけるのを確認すると、エンジンを震わせ帰っていった。
電灯の下には、あの銀色の残像がそこにくっきりと残された。

つづく

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