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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 37
shinnjiteru37

37.

「あのさ、おねだりってまさかあんた、変なこと考えてないでしょうね?」
凝視する男の視線からそういう風なことが頭に浮かんだ私は、性急に自分から切り出した。

「考えてもいいけど、ダメって言うだろ?」
口角をクイッとあげて、ニヤリとする西門さん。

「//ぅん~じ・じゃあ、何?梅の次は桜?いいよ、どこでもお付き合いしますよ。
バイクも慣れたし、勉強になるしさ!あっ、動物園でもいいよ!
こないだ周くんと行ったばっかだけど、楽しかったし・・・。」

「フッ、何、焦ってんの?
確かにもうじき桜の花見シーズンだな。
牧野、吉野の桜、見たことないだろ?うちの別邸からの眺めは見事だぞ。
今度、連れてってやるわ。
おっ、その時、一泊ってのはどうだ?」
ニヤリと口角を上げる西門さん。

「んもう~、馬鹿言わない!ねえ、おねだりって何?ほら、さっさと言う!
//あの、あのですね~、言っときますけど、例の返事は強制的にOKしろとか言われても絶対無理ですからね!」

西門さんの瞳が微かに揺れ、コーヒーの湯気に視線を落とした。

「牧野、マジで俺が無理矢理どうにかすると思ってんのか?」
「は?」
「はぁ~、俺って本当に牧野に信用されてないんだなぁ。」
「いやいや、信用あります!!あります!!
なんだか、ちょっとさ・・・そういうのはねえ?ちゃんと納得っていうか・・・。」
「ククッ、はっははは。」
急に笑い出す西門さん。

「相変わらずウブだよな、お前・・・。
男を喰って、女っぷりをあげてやろうとか思ってみろよ!」

背もたれに身を預け、笑い続ける目の前の余裕の態度が気に食わない。
西門さんに女の部分をからかわれ、意外にもなけなしのプライドが傷付いた。
まだまだガキって言われたみたいで腹が立って、西門さんに食って掛かる。

「まだまだで悪かったですね。
そういう西門さんは、こんな私のどこが気に入って下さってるのかしら?
それとも、調子に乗って言っただけ?
おかしいと思ってたんだよね、今頃になってそんな事言いだすなんて。」
「牧野、そういう男の喰い方は良くないぞ。
お兄さんが優しく教えてあげようか?」
余裕を見せる西門さんは、その手を伸ばし、私の腕をガシッと握った。

西門さんの綺麗な4本の指が手首から10センチ辺りを掴んでいる。
指にも意志があるのか、離さないと語っているようにビクともしない。
そっと見上げると、決しておふざけなんかじゃない。
その双眼は堅い意志を感じさせ真っ直ぐこちらを見据えていて、キリリと真剣な表情の西門さんがいた。

息を止めたのもつかの間、今度は心臓が尚早に鼓動を打ち始め、捉えられた小鳥のように心もとなく動けない。
西門さんの瞳には熱い激情がちらつき、私はこの男(ヒト)に強く求められているのだと、
脳髄からうるさい程伝達されて、てんてこ舞いになる胸の内。
けれども、確かにどこかでポッと明るく色づく場所も感じられ、不思議と嫌ではない。

「///に・にしかどさん・・・、日本茶の方がいいよね・・・。」
ギュッと搾り出して貼り付けた笑顔。
自分でも可笑しいと思うけど、それが精一杯。


ヤカンに水を入れ、火をつける。

カタンッ

ふわりと優しく背中から包まれた。
植物系のバニラがかった甘酸っぱい香りが鼻腔を通って、身体中に広がっていく。

鎖骨の下とお臍の上に西門さんの腕を感じて、
そして、左耳には西門さんの甘い声が響く。

「牧野、少しだけこうさせて・・・。じっと・・・。」

そういって、西門さんは私の髪に顔を埋め、更にぎゅっと深く腕を回し、大きく深呼吸した。

「西門さん・・・?」

私を捕まえるように、強く深く腕の中に閉じ込め、じっとして動こうともしない。
何もしゃべらず動かず、ただ髪の毛越しに西門さんの吐息の湿り気と温かさを感じた。
密着している二人の身体の隙間には拳程の余裕もなく、西門さんのか自分のかわからない心臓の音が耳に定期的にこだましている。

「牧野・・・。」

「 ・・・・っ。 」

西門さんのやや掠れた小さな呻き声・・・。
その唇はどんな風に動いていたのだろう?
振り返ることも出来ず、息を呑み、自分の開いた手のひらで両太腿を押さえた。
こんな切なげな西門さんの声色は今まで聴いた事が無い。

私は返事すらできず、身を固くし全身の神経をさらに研ぎすました。

「はぅ・・・。」

微かに聞き取れた小さな溜息。


その胸を締め付けられるような苦しげな声に、感情が一気に昂揚し理性は麻痺させられ、雌の本能が瞬時に顔をのぞかせる。
ムードに流されただけかもしれない。
けれど、どうしようもなくそんな西門さんを抱きしめてあげたいって思った。

「西門さん・・・。」

頭では、身体を反転させて触れてあげたいと思うのに、奥手な私の身体は動かない。
私の声に反応した西門さんは力を緩ませ腕を引くと、その両掌を私の体の上でゆっくり這わせ始めた。

多分、彼にとっては無意識の行動だったのだろう。
お臍から右乳房へと載せられた大きな西門さんの右手の感触。

「・・うっ、ヤベッ・・。」

とっさにそう言うと、西門さんの身体が私からスーッと離れてしまった。
気のせいか、黒いサラ髪の下は頬が赤く染まっている。

「 ・・・・・。 」
「 ・・・・・。 」

先に口火をきったのは西門さんで、一呼吸した後、「参ったな・・・。」って。

そして、余韻の只中、固唾を飲んで見上げる私から視線を反らすように、
バイクのキーを荒々しく掴み、「遅いから、帰るわ・・・。」と玄関へと歩き出した。

「へ?」
「 ・・・・。 」

こんな時でも、スマートに靴を履く男。
もたつきもせず、扉を開け外に一歩踏み出すと、振り返りながらこう言う。

「減るもんでもないし、大目に見ろよな。おねだり、チャラにしてやっから。」
いつもの西門さんの口調に戻っていた。

部屋に残された私は、西門さんの残り香を無意識に深く吸い込み、テーブルのマグカップを洗い場へ運ぶ。
先ほどのことを反芻しながら、スポンジに洗剤をつけて泡立てる。

西門さんの切ない声が今だに耳に残って、胸が痛い。
あの時、チラリと見せた赤く染めた頬、なんだか意外だった。

おねだりって、あれ?
女ったらしの西門さんって、案外ウブなんじゃないの・・・クスッ。
あんだけ人に言っといて。

勝手に抱きしめられ、あろう事が右乳房まで触られたのに、嫌じゃなかった。
むしろ、そんな西門さんがちょっぴり可愛いって思えるのが不思議で、今こうして笑ってる自分には正直驚く。

尊敬や憧れで、そうはならないよね?
異性として、最も遠い人だと思っていたけど、この気持ちは・・・もしかして、好きだからっていうことなの?

目線は手元、けれども、思考は自分の心をグッと掘り下げた辺りを右往左往していた。

ガシャン・・・!!

手に持っていたマグが、床に落っこちた。
滑り落ちた西門さんのマグ。
大きな音を立てて、いくつものピースに割れてしまった。
食器を割るなんて、めったにないのに・・・。


反省しつつ、割れた破片をしゃがんで片付けていると、遠くから物々しいサイレンの音。
静かな夜を無遠慮に破るような音が町に響き渡る。


ピーポーピーポーピーポー ピーポーピーポーピーポー


えっ?
血の気が引くと言うのは、このことかもしれない。
とっさに、ものすごく嫌な予感が全身を貫いて、身震いした。

思わず、外に出ようと、玄関へ行く。
靴をはこうとするのに、片方は蹴り飛ばしてしまう始末。
サイレンの数は複数に増え、徐々に大きくなって止まる。

近い・・・。

大通りに出て、赤いサイレンに向かい全速力で駆けていった。
片道3車線の通りには、2tトラックらしい車が歩道に突っ込んでいて、青っぽい乗用車が中央分離帯に鼻先を向けて道路をふさいでいた。

白い救急車が二台とパトカーが一台。

事故は??負傷者はどこっ??
私の身体は小さく震え、歩くのがやっと。

救急車の向こうに見えたのは、無残に前輪上部が捻れ横転した黒いバイクだった。

嘘っ・・・。

ありえない。
息が出来ない。

白衣を着た救急隊員達の背中が見えた。
近づきたくないくせに、足は早歩きとなり、呼吸が短く荒々しいものへ変わる。
救急隊員の左側に、脛から下だけ見えたのは、見慣れたグレイのパンツと黒い靴。

・・・っ!!!西門さん・・・!!

つづく

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