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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 40
shinnjiteru40

40.

真新しいランドセルと制服に身を包んだ小学一年生らしい子供達が、それぞれの母親が作る輪の横で崩れた輪を作ってブラブラしている。
小さい頃からこうしてプラットホームで待ち合わせして、大人たちと一緒に電車に揺られ通っていると、早く大人びてしまうのではないかという考えがよぎる。

きっと入学式には、桜の下で輝く未来を見つめながら、たくさんの記念写真を撮ったことだろう。
この子たちの行く末が、健康で何事も無く続いていくのを祈るような気持ちで微笑みかけた。

西門さんが掲載されている5月号は、皮肉にも飛ぶように売れた。
ニュースで流された西門さんの事故の映像に、誰もが興味を抱き、改めて西門さんの生い立ちから、
『F4サラブレッドの悲劇』と題され放送されたからだ。

クールで妖しくて美しい西門さんの映像。
例え、事故に遭ったとしても変わることの無い魅力にあふれている。
その素顔を知らず、熱い情熱を感じたことも無いくせに、西門さんのことをよく知ったような口ぶりのキャスターが私には許せなかった。

決して悪く言ってる訳ではないけれど、西門さんの名前を耳にするだけで、敏感に反応して頭が真っ白になってしまう。

西門さんがどれほど茶道を愛していたか、どれほど懸命に努力していたか、どれほど家元にふさわしい器を持っているか知らないくせに、気安く伝えないで欲しい。

重い足取りでまた一日の仕事を始め、仕事が終われば、その足で病院へ行く。
私の到着を心待ちにしてくれる人は居ないけれど、希望を捨ててはいけない。

今日の西門さんはもう少ししゃべってくれるだろうか・・・。
神様に私が許される日は来るのだろうか・・・。

ちょうど昼休みの時間がきて、席を立とうとした時、携帯が鳴った。
発信先は、花沢物産ドバイ支店統括責任者でもある花沢類。
どこからかけているのだろう?

「もしもし、類?」
「牧野?・・・良かった。」
「何が良かった?・・・。」

「だって、あきらがさ、牧野が死んでるって言うから、クスッ。」
「ブッ、何それ。私は、いつもと変わらず元気だよ。それより、類は今どこにいるの?」
「ここのところパリに居るんだ。ドバイと行ったり来たりだよ。
それで、その後、総二郎とは話せてるの?」

「うん・・・変わんない感じ。
病室入って軽く挨拶交わしたら、後はあいかわらず、外を眺めてボーっと何かを考えてるような感じで、すぐに目を閉じてしまうの。
起きてるのか眠ってるのかわからないし、声もかけにくくて。」

「でも、ちゃんと毎日行ってるんだ・・・?」
「当たり前でしょ、・・・・・だって、責任あるもん。」

「牧野のことだからそう言うと思った。
けど、事故は牧野のせいじゃない。加害者は居眠り運転の奴であって、誰一人牧野を責めてないよ。
それは、総二郎だって同じ。
そんな風に牧野が思ってると、総二郎が余計につらくなる。
いい加減、わかったら?」

「うん、わかってるよ・・・。西門さんもそう言ってくれたし。」

そうだ。
たしかに、西門さんからも牧野のせいじゃないから気にするなって言われた。
意識が戻った後もうつらうつらした状態で、一般見舞い客の面会謝絶が長く続き、集中治療室から出て一般病棟のVIP個室へ移ってから、ようやく西門さんと対面できたのは事故から12日目のこと。

何からしゃべっていいのか緊張した面持ちでドアを開けると、横になったままの西門さんとすぐに目が合った。

久しぶりに見た西門さんはまるで仕事の骨休みをしているかのように、その顔は何も変わらず妙な違和感を浮かばせ、私を見つめ続ける。
不撓不屈の信念からくるのだろうか、何故にそう平気な顔していられるのか推測さえ出来ず、私には単純にも、また西門さんとそうして会えることの喜びが何より勝っていた。

スッキリと目覚めた後のように肌は血色を取り戻し、再びあの涼しげな瞳で見つめてもらえて、嬉しくて瞬く間に
涙腺が決壊し、グジュグジュの笑顔を向けたと思う。

「西門さん!」

ほんの少し口角が上がり、懐かしい声が届く。

「元気か?」

「・・・んもう・・・ウン・・ッグズッ・・全然、元気じゃないよ・・・ヒック。」
涙がポロポロと頬を伝い、西門さんの顔がよく見えなくて困った。

「総兄、牧野さんはずっと今日の日を待ち焦がれてたんだよ。
ひどく泣かせちゃったね。」

側にいた周くんがそう言うと、西門さんは再び口角を少し上げて、小さく微笑んだ。


西門さんは、全てをドクターから聞かされているはず。
それをどんな風に受け止めているのか、まったく想像もつかない。

「西門さん、謝って済むことじゃないってわかってる。・・・グズッ・・・。
本当にごめんなさいっ・・。」

深々と頭を下げた。
返事が無いので見上げると、困ったような表情を見せる西門さんのために、頑張って言葉を続けた。

「私が・・・ヒックッ・・、私が電話で呼んじゃったから・・ウッ・・。
すごく、疲れてたのに・・ッフッ・・あんな時間に無理言ったから、・・こんなことになって。
ゴメンなさい・・・ウウウウッ・・・。」

私は顔を上げられず、立っているのもやっとな程、みっともなく泣き崩れてしまい、今から考えると本当に一番泣きたい人の涙を奪ってしまったのかもしれない。

「牧野、お前がそんなに泣いても、元に戻るもんでもない。お前の顔、変に不細工になってるぞ。」

「・・・ウウウウウッ・・、西門さん・・っ。」

「こうなったのは、牧野のせいじゃない。二度と自分を責めるな。」

そう言って、目を細める西門さんは、すぐ側にいるのに少し遠くに感じた。

「それで、総二郎はいつ頃退院できるの?」
「まだまだ入院しなきゃダメらしい。何回も骨の形成手術を受けるんだって。」
「今日もめげずに、会いに行くんでしょ? ククッ、司の時といい、雑草魂がないとやってらんないね。」
「西門さんは、道明寺みたいにひどい言葉を投げてこないし、何の害もないよ。」
「ふ~ん、けど、そこが牧野にとってはつらいところなんでしょ?」
「・・・西門さんが何考えてるのか、全くわかんないよ。」

若く体力のある西門さんは、一ヶ月が過ぎると車椅子に乗りたがった。
といっても、すぐに手術の予定が入り暫くリハビリはお休みの繰り返しで、焦りは禁物のようだ。

手厚い完全看護の病室では、何不自由なく見えるけれど、このまま人生を終える老齢ではない。
動けるように願って止まず、じっとしてられないのは至極当然のこと。

けれど、西門さんは決して弱音を吐くことはなく、例え練習中でも私が行くと途中で止めてしまい、つらそうな姿を見せようとしない。
私に向かって、何も吐き出してくれない。
受け止めるものも与えられず、何もしてあげられない手持ち無沙汰。
何をどうやって伝えればいいのか、わからないもどかしさにイラついた。

会えば会うほど、日に日に西門さんとの距離がどんどん開いて、跨ぐこともできない大きな溝ができていくのが怖くて、何度もロビーで時間をやり過ごした。

周くんは、西門さんの代行で春の茶会やセミナー講師に出かける商用が増え、たまに病院で顔をあわせる程度。
主な私の話し相手は看護婦さんで、西門さんが介助なしに一人で屋上に行った事や、売店まで行けるようになった事など、全て立ち話から聞いた。

その日は、九州が梅雨入りと報道され、関東にも朝から冷たい春雨が降っていた。

仕事が休みで、朝から病院に赴き、そっと扉をノックする。
ガタンと大きな物音が聞こえたので勢いよく扉をあけると、こちらに背を向け立ちながら、ベットに両手を付いてわずかに身体を震わせている西門さんだった。

すぐ側にはあらぬ方向を向いた車椅子。
そして、床の上をこちらに向かって伸びているのは松葉杖だ。

「 ・・・・!」

振り返ることもしない西門さんは、うつむきながら涙を流しているようだ。
バイクで風を切って走ったその背中は、とても温かく頼もしいのを私は良く知っている。
ただ、今は革ジャンじゃなくて、薄い病院着に代わっているだけ。

大丈夫・・・、大丈夫・・・。

考えるより先に私は、西門さんの背中に後ろから抱きついた。
西門さんの胸に両腕を回し、薄い綿越しに温かさが伝わるよう、凍えてしまわないようにしっかり掻き抱いた。

「一緒に、一緒に頑張ろう。ねっ?私がずっと側にいるから、だから、一緒に頑張ろう?」

「 ・・・っ、 ・・きの?」

「西門さん・・・。」

ややあって、静かな声が届いた。

「離してくれないか。」
「ご、ごめんなさいっ・・・。痛かった?」

視線はベットに向けたまま、続いて低い声が聞こえた。

「牧野、俺はもうダメだ。頼むから、もう俺に構うな。」

予想もしなかった衝撃的な言葉が西門さんの口から発せられ、立ちくらみしそうになる。
外柔内剛(がいじゅうないごう)な西門さんは、時に軟派な言葉を吐き、つかみどころの無いふざけた印象を持つ。
けれど、その割にどこか筋が通っているから安定して見える不思議な人。
だから、ふざけた言葉は西門さんの十八番だったけれど、こんな弱気な西門さんはF3さえ知らないのではないだろうか。

考えると同時に、電光石火のごとく湧き上がる願いが口から飛び出し、ぶちまけた。

「何言ってるのよ!二人で一緒に幸せを探そう!?西門さんの側にずっといる!」

西門さんは、ゆっくりと向きを変えベッドに腰掛けると、こちらに鋭い視線を向けて言った。

「まさか、お前、俺が前に付き合ってくれって言ったこと本気にしてた?
やっぱり、お前は呆れるくらいチョロイよな。」

「・・・っ?嘘だよ、そんなの。」

「俺が抱きたいのは、胸のでかい色っぽい女だけなんだよ。
お前は、仲良しのダチの一人。
それ以上でもそれ以下でもない。」

「 ・・・・。 」

「毎日、見舞ってくれるのは有難いけど、そんなことしてもらって治るような易しい傷でもないだろ。
だから、牧野、ここへはもう無理して来るな。仕事だってあるだろ?」

西門さんの瞳はこちらを見据えているけれど、逆光なので奥まで見届けられない。
窓の外は、白にグレイを少し足したような雲が忍耐強く遠くのマンションを取り囲んでるように見える。

「た・たとえ・・・、例えダチの一人だと思われていても、西門さんの側で役に立ちたいの。」

「ふっ・・・、牧野の気持ちは有難くて涙が出そうだわ。
けど、牧野、良く聞いてくれ。
俺は、家元の座を周に譲るつもりだ。
こんな事になって弟子や門下生に不穏なムードを与えるのは良くないし、とっとと立場を示すべきだと
思ってる。
親父には近いうちに話す。
牧野さえよければ、周の力になってやってくれないか?」

「そりゃあ、出来ることは何でもするよ。
周くんのお手伝いも、勿論のことだよ。」

「いや、もっと、近くにいて支えてやって欲しい。
あいつは、まだ学生で半人前だから。」

「どういう意味?」

「気付いてるだろ?周が牧野に好意をもってること。」

西門さんは、声色を変えることもなく、まるで決められたことを話すように落ち着いていた。

つづく

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