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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 51
shinnjiteru51

51.

経済改革以来、投資先として魅力的な成長振りを見せるお隣の中国は、大きなスポーツ・イベントで注目を浴びたけれども、豊かな伝統文化の国でもある。

そこで、我がグループも中国の宝飾界に着目し、同国で開かれた見本市で目立っていたブースに目をつけ、その加工技術・消費動向・世界への発信について語ってもらうインタビューをいくつか企画した。

記事となる内容の事実確認のため、PCとにらめっこし、切りのいいところでスイッチをオフにした時だった。

「おい、牧野!こら、何をのんびりしてる!
早く片付けて、帰れよ!」

キャップが受話器を下ろしながら立ち上がり、私に向かって怒鳴るように言った。

「は?どういうことですか?」
キョトンと間抜け面で答える。

「何をやってんだ、お前は全く・・・。“あの方“がお待ちだぞ。」

「あの方?」

「ぐずぐずするな。すぐに向かわせると返事したから、急いで行けよ。」

「?」

「呆けた顔して、お前、わかってんだろ?」

「あの方って、もしかして、ここを紹介してくれた・・・。」

「あの方と言えば、花沢さんに決まってるだろ。
他に誰がいる?
たった今なあ、あの方から“牧野はそんなに仕事が大変なのか?”って、俺への当て付けみたいな電話が入ったぞ。
冷や汗かかしたいのか?
頼むから、花沢さんだけは待たせるなよ、鬼上司みたいじゃないか~。」

「マジですか?」


この大手出版社は花沢物産の関連会社であり、道明寺に置いて行かれ、ぽつねんとしていた私に、類がここを紹介してくれた経緯がある。

うちのキャップは仕事も出来て、人望も厚い上司なのだけれど、良きパパであり家庭人でもあるわけで、切れ者の実力者と評判の花沢物産次期社長という権力の矛が自分に向かってくるのだけは、死んでも避けたい様子で気の毒な程のあわて振り。


おい、ぐずぐずすんな。約束してたんだろ?→そんなのしてませんよ。→花沢さんは、そういう口ぶりだったぞ。→はいはい、だいたい聞かなくても分かりますけどね、約束はしてませんから。→約束なんかどうでもいい、おい、とにかく早く行け!→類、なんで急に来るかな~?ホントに勝手なんだから。→そんな事、俺は知らん!とにかく急げ!→それで、どこに行けばいいんですか?→下だろ。そんなことくらいわかるだろう?→わかるわけないでしょうが、神様じゃないんだから・・・。


ってな子供じみた応酬が続き、口の中の文句がスッキリ出ずモゴモゴしたまま、ポイっと放り出される形でビルの外へ出た。

時刻は、まだ夜の7時。

けれど、そこで待っていたのは遊園地のアトラクション並みに、ビビらされ、しばしフリーズさせられる光景だった。

会社のビルを出ると、冷蔵庫のような冷気が火照った頬に気持ちよかった。

目の前の歩道には、どうしたわけか一箇所、歩行者が膨らんで通行している箇所があり、何人かの女の子たちはそこで立ち止まり、携帯を取り出しカメラのレンズを向けている。

また、ドラマの撮影かな?
この銀杏並木では、たまに撮影が行われるのだ。

そう思いながら、その人垣を進むと、私の足もピタリと止まってしまった。


中央には、ガードレールに腰掛けて、見上げながら何やら話している花沢類がいるのだ。

グレイのトレンチ風コート内側にはボアが見え、コート下には背広と白シャツ。
ボタンは2つはずされ、鎖骨の窪みがはっきり見える、けれども、代わりにハリーポッターのように長いストライプのマフラーがアクセントとして巻きついている。
あいかわらず、後頭部で髪を束ねたポニーテール・スタイルで、真冬のこの時期、ぜいたくこの上ない小麦色の肌が目に付く。


そして、もう一人。

類の前に立っていた長身の男は、まるで毛布のように長く大きい黒いロングコートを厭味なく着こなしていて、見事にプレスされたズボン裾とピカピカの黒靴は輝くようだ。

強い巻き毛のその男は私に半背を向ける形で立ったまま、類を見下ろしながら耳を傾け聞いていた。
顔は見えないけれど、全身から溢れ出るオーラは健在で、その人並みはずれて華やかな美貌が損なわれてないのは疑う余地も無い。

二人は、ただ道端で朗らかに談笑しているといった光景なのだけれども、この二人の醸し出す雰囲気といったら圧巻で、側に立つ冬枯れの木も、珍しい黄金色の幹をした舞台背景に見えそうだから怖い。

“日本経済を引っ張る麗しき若き獅子、何やら語り合う“
ってコピーが浮かび、職業柄、写真付きなら結構な数字になるだろうと嫌らしい考えが浮かぶ。

大げさかもしれないけれども、そこだけ別の空間で完成された映像の一コマで、観客の心を掴む魅力満載のシーンとなっている。

けれども、自分たちがどんなに目立っているのか、これっぽっちも女性(ヒト)の目を意識していないことは、私には真理と呼べるほど分かりきっていた。

今、話してる内容だって、女の子の話なんかじゃ絶対ないはずで、
類は道明寺語録に突っ込み入れてるだけかもしれないし、少し大人になった道明寺のリアクションをからかっている程度と想像つく。


「あんた達、ここで何してんの?!」


色気もクソも無い捨て鉢なトーンが、瞬く間に完成されたきれいな映像をブチ切りした。
久しぶりに会う友人に向かって、他にかける言葉を思いつかなかったのか?
でも、本当にそれしか浮かばなかったのだ。

私の声に振り返った道明寺の視線が、驚きからすぐに違う色に変わり、しばし私の身体の上を彷徨う。

長い睫毛の奥の方から、あらゆる変化を吟味されているようで、ゾクゾクとした。

そして、類もニッコリ微笑みながら、手を振るでもなく静かに私をじっと見つめていた。


ギャラリーからの突き刺さるような視線を受けて、二人の所まで近づき立ち止まる。
そして、巨木のような道明寺を見上げて黙り込んだ。


「おう、牧野、久しぶりだな。」

その表情には、無謀さの代わりに年齢に合った落ち着きと丸さが加味されて、昔見た道明寺の照れよりずっと重く抑えた印象を浮かばせていた。

「道明寺・・・。でも、なんでここにいるの?」
答えを想像し、自ずと、少し緊張する。

「司も牧野とご飯食べたいんだってさ。」
横から類が代わりに答える。

「おい、そんなこと一言も言ってないだろ!
通りすがりにお前がこんな所に座ってんのが見えたから、挨拶しにきたんだろうが。」

「へえ~、じゃあ、もう帰る?挨拶なら、終わってるけど?」

道明寺は、私に向き直り口を開く。

「牧野、ホントに久しぶりだな。
元気そうじゃねえか。
ここか?お前の職場。」

「うん。このビルの中。」

「なあ、牧野、友達ならいいんだろ?
3人で飯食うなら、抵抗無いか?」

遠慮がちな提案はビックリするほどの気遣いようで、どうやら、道明寺はゼロ地点に立ち返ってみるつもりらしいことが伺える。
どのように考えてのことなのか、詳しくはわからない。
とにかく、昔のような強引さは一切感じられず、私の警戒レベルがスッと下がって穏やかな受け入れが出来そうだ。


でもさ、ちょっと待てよ。

「ちょちょ、ちょっと、私は今日、類とも約束なんてしてなかったでしょ?
だいだいね、類!勝手に職場の上司に電話してきて脅すなんて卑怯だよ、今晩の食事の予定も勝手に決めないでよね。」

「牧野、ダメなの?」

類も道明寺も、とたんにしゅんとして可愛らしく返事を待っている。

「う~ん、どうせ、残業くらいしか予定無かったからいいけど。」

私も私。
なんで、こんなに甘いのだろう。

「じゃあ、一緒にご飯食べようよ。久しぶりに。」

類はあいかわらずのペースで、まあ、なんだか嬉しく思えるのだから不思議なのだ。

道明寺と話すのは、一年ぶりだった。

その間、どんな風に暮らしているのかさえ、一切知らなかったわけで、何はともあれ道明寺が元気にここにいて、穏やかな精神でいることに少し安心もする。

友人として道明寺と語り合えるのは、私は二人の最終目標だと思ってる。

「ちぇっ、やっぱり、来るの?」

拗ねた口ぶりの類が立ち上がり、それから道明寺に行き先などを手短かに伝えた。

道明寺は、仕事を片付けてからの合流らしい。


道明寺は偶然、類を見つけて、車から降りて挨拶だけのつもりだった。
けれど、職場前で(勝手に)私を待っている事を聞き、道明寺も急遽参入しようと思ったらしく、なんだかんだと言って一緒に待っていたようだ。

類のように道明寺だって晴れて帰国したのだし、挨拶だけでも連絡できただろうに、不器用なところがある道明寺は、振られた男がどんな話をすればいいのか、わからなかったのかもしれない。

類に連れられて行った懐石料理のお店。

「類とも久しぶりだよね。あいかわらずの日焼けだけど、あっちは暑いの?」

「まあまあの穏やかな気候だよ。一応、冬だし。
雪は降らないけど、日差しはあるよ。」

雪といえば、金沢の静かな景色が浮かんできた。


「牧野、周とは?」

突然、話を振られて、ただ首を横に振って答えた。

類には、西門さんが金沢に行くまでのことを、大まかに聞いてもらっていたので、離れていても話が通じる。

「あのさ、類。
西門さんの居場所、わかったんだよ。」

「それ、誰から聞いた?」
その薄茶のガラス玉のような瞳をグッと向けて、少し真剣な表情になる類。


とそこへ、仲居さんの声が響いた。

“お連れの方がお見えになりましたぁ。“

「あっ、そうだ、司はさ、日本に帰って来るんだよ。」

「え?そうなの?」

「うん。
日本の本社勤務だって。
俺も、もう少し日本に長く居られるようになると思うし。」

そこには、あの非常階段で見てた柔らかな白い光のような類の微笑が、時を経ても変わらずにあった。

それから、道明寺が加わり、再び乾杯から始める。

「道明寺、日本に帰ってくるって本当?」

「ああ、8年ぶりの東京だ。」

「また、あのお屋敷に住むの?」

ふさわしくない質問のような気がしたけど、なんだか聞いてみたかったのだ。


「多分、そうなるだろうな。
部屋は当時のままだ。」

もし、記憶のアルバムがあるのなら、一番クリアで濃い色なのが道明寺の東の角部屋の写真だ。

光具合や香りまでを写し撮っている特別バージョン。

いろんな想い出が蘇り、目の前には道明寺本人もいて、なんだか胸が熱くなる。

少しづつ紐解くように、お互いの仕事の話から始まり、やがてプライベートの話へと移って行った。


「それで、総二郎のいる場所、誰から聞いたの?」

途切れた会話の続きをしてきた類。
類も、固く口止めされ黙っていたのだから、気になって当たり前。

男同士のプライドをかけた約束があったことに気付くのは、ずっとずっと後になってからの話で、この時は、私はまだ口止め程度にしか思っていなかった。



「総二郎がどうした?」

トーンが変わったことに、道明寺が気付いたようだ。

「司、総二郎の事故のこと知ってる?」

「総二郎が事故だと?ひどいのか?」

そして、類が淡々と今までの経緯を道明寺に話して聞かせた。


「嘘だろ。本当に、歩けないのか?」

幼馴染の不具を初めて聞かされ窮境を想像し、ショックを受けた道明寺。
眉間に縦皺を寄せ、どうにもできない悔しさを噛み締めているようだ。

そして、私は何度も会いに行ったけれど、会えなかったことを伝え、それでも負けずに納得するまで会いに行くつもりでいること。

そして、私は自分の気持ちに気付いたこと。

西門さんが好きなのだと、二人の前で宣言した。

つづく

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