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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 52
shinnjiteru52

52.

『類、やっぱり気付いてたんだ・・・。』

北陸本線を走る列車は、雪景色の中、その懐に乗客をしかと抱えながら快走する。
湯たんぽのように温かな座席に座り、彼らF3のことを思い出しながら、和やかで幸せな気持ちに浸っていた。

「やっと言えたね。」

類が言った第一声がこれ。

西門さんに惹かれていった私の気持ちに誰より先に気付きながら、励ますでもなく、からかうでもなく、決して急かすことなく、今なおそっと見守ってくれている。

「類、知ってたの?」

こう聞いた私に返ってきたのは、私の大好きな微笑み。
それプラス、「わからないでどうする?」とでも言いたげな眼差しだった。

『そうだよね・・・。』

誰より類は、安心できる存在だった。
類がUAEへ行くことになる前から、私が西門さんへ恋する前から、いや、道明寺とのことで悩み苦しんでいた以前から。
ううん、私たちが出会った英徳時代からずっとそうだ。

多分、声に乗せなくても、私の中から出るいろんな表現が類にはバジバシ伝わっていたのだろうと思うと、なんだか申し訳なくて、類の気持ちを思うと切なくなる。

気付いていたのに、どうしてそんなに平気な顔が出来ていたのだろう?

でも、類って人は・・・、言ったことは守るんだね。

改めてそう感じながら、あの日、類と交わした会話が思い出され少し胸が苦しくなる。

あの人の感情表現には誰もが少々の疑問を感じるだろうけれど、近くに居ながら、ちっとも気付かせないなんて、ホント見事すぎて畏怖の念さえ感じるよ。

私なんかより、ずっとずっと繊細なのに強い心を持ってるんだろうな。

私にはもったいないような・・・友人。

あの日、どうして類の気持ちに応えられず、そして、また別の男性(人)にこうして恋してしまったのだろう・・・。

「お前、今度はしっかり話すじゃねえか。」

道明寺のテノールが響いた。

「え?」

「ん?」

道明寺の眉毛が動く。

「はい?」

「くくっ、思い出せねえんだったら、それでいいけどよ。
俺はあの時の感激を、多分一生忘れられっこねえな。」

「何よ、それ。」

「昔、あきらん家で浴衣着て集まったろ?
お前、あの時、みんなの前で言ったろ?
俺のことが好きだって。
ふっ、ガッチガチになりながらも真っ直ぐに言い切ったお前の顔、くっきりはっきりココに残ってるぜ。」

人差し指をこめかみに当てながら、微かに笑っているように見える。

「・・・道明寺。」

「まあ、青春の思い出だ。」


思い出と・・・?

ああ、道明寺にもちゃんと時が流れていたんだ。


なんだか勢いで、西門さんが好きだと宣言してしまったけれど、まさか、道明寺にこんな風に柔らかく受け止めてもらえるとは想像もしてなかった。

離れていても、私たちはずっと変わらないと一途に信じながら、背を向け飛行機に消えていった道明寺が、私の心変わりを知った時、激昂し混乱し苦悩もし、なのに今、ここで穏やかに顔を突き合わせ話をしているのだ。

あの血の気の多い道明寺が、どうやって気持ちを静めたのか想像するのはつらいけど、確かに道明寺は私達のことを過去のものとして消化している。

半ば一方的に清算を告げた私は、どこかでずっと、道明寺が納得してくれますようにって願い続けていたんだと思う。

それは、私のエゴであり、うぬぼれであって、道明寺はそれよりずっとずっと大人だった。

類と同じようにここに座り、私達のことを昔話にすりかえながら、取りも直さず、私のことをとても大事に思ってくれているのがわかる。


二人揃って、どうしてあたしなんかに優しくするの?


「あんた達、ホントにおかしいよ。なんていうか、・・・けったいな奴ら・・だよ。」


今、私には越えなきゃならない壁がある。
それは、強固で高くて、理屈で考えれば無理なのかもしれないし、何度トライしても、跳ね返されるのが関の山かもしれない。
立ち上がりまた向かおうと力む私は小さなピョンピョンガエルみたいなものだけど、
そんなチッポケな私を、包んでくれる二人を前に、申し訳なくて、有難くて、嬉しくて・・・、鼻の奥がツンとして涙がこぼれ出た。

「お前、何泣いてやがる?」

「あ~あ、司、牧野のこと泣かしちゃった。」

昔、道明寺も類も、私の笑顔が大好きだと言った。

だから、私は飛び切りの笑顔を見せたいと思う。
涙に濡れた泣き笑い顔でも、きっと私の笑顔なら喜んでくれるよね?
それこそ、うぬぼれかもしれないけど、私ができるお返しはこれしかないから。

一瞬、道明寺も類もつられたように、少し口元を綻ばせた。

「ま~きの。鼻水出てる。」

「うそっ?」
涙声の変な声が出た。

「クスッ、嘘だよ。」

「もう~、類!」

言葉にならない懐かしさがこみ上げる。

そんな類と私を、向かいの席で見守っていた道明寺が、突然、割って入ってきた。

「お前ら、さっきから気に喰わねえって思ってたんだが、なんで隣同士で座ってんだよ!」

「へえ?」

「俺はこっち側に一人じゃねえか。」

「司、クスッ、子供みたい。
牧野、司の方に座ってあげたら?
俺は、そっちの方が牧野の顔が見えて良くなるからさ。」

「はあん?そしたら、俺が牧野の顔が見えなくなるじゃねえか?」

「じゃあ、牧野にあそこのお誕生日席に座ってもらう?」

「プッ!おかしいでしょうが、そんなの。」

「そうだ、類、お前が誕生日席に行け!」

「司は後からきたんでしょ。行くんなら、司でしょ。」

いつの間にか、英徳高校時代のように幼稚な言い合いが、ギャーギャーと続く。

でも私は、類も道明寺もわざとそれを楽しんでいるんじゃないかと思った。
無邪気な頃が懐かしくて、半分、ふざけて揚げ足を取り続けていたのじゃないかと。

その後、道明寺が場所を変えると言い出して、向かったのはメープルのバー。

「あきら、呼ぶ?」

「類、それはいいね。じゃあ、私、電話してみるよ。」

そうして、急遽の誘いにもかかわらず、道明寺帰還のプレ祝いを兼ねて駆けつけてくれた美作さんと合流した。

仕立ての良い幅広ストライプの入ったダーク・グレイのスーツに淡い菫色に水色を足した微妙な色のシャツ、絶対海外ものだと思う。
濃紺系のネクタイでキリリと引き締め、色気と精悍さを発散させながら美作さんが現われると、近くの客の視線がいっせいにそっちへススーッと動いた。

メープルのバー・チェアに私を挟んで腰掛けていたF2も振り返り、それぞれ右手で拳タッチし、破顔しながら馴染みの挨拶を交わす。

そして、美作さんはおまけのように私の頭にも拳をチョコンと乗せた。


「よぉ、牧野。」

「美作さん、待ってたよ!」

「俺、ここ?」

道明寺の横の空席を示しながら、美作さんが聞く。

「・・・。」

無言のF2。

「・・・だよなぁ。まあいいさ。お前ら、牧野と久しぶりだもんな。」

「え?あきらは牧野と時々会ってるの?」

「いや、類、ただの言葉の綾だ。
俺は、お前らより日本に長く居るということだけだから、そう妬くな。
なあ、牧野、俺らも久しぶりだよな。」

「うん、そうだよ。
年末に1回、ランチして以来だよね?」

「おお、あの時は時間がなくて悪かったな。
誕生日祝いとは名ばかりのビジネスランチで。」

「おもしろくねえ・・・。」

小さく吐くように言う道明寺は、昔のように吠えたりしない。

水滴が一滴落ちれば、ポトっと着地する音に敏感に反応し、逆立つことの多かった道明寺が、今はその広がる様を眺めながら意見すると言ったところだろうか。


「あれは、偶然だったんだよね?
歩いてたら、美作さんの車が横を通って、ランチに連れて行ってくれたのよ。」

「総二郎のこともあったから、誘ったわけ。
俺は、それだけだから。」

「俺だけが、何も知らなかったという訳だ。
やっぱり、おもしろくねえな。」

「司は、仕方ないでしょ。
牧野に振られて、いじけてたんだから。」

「ツッ・・・。」


「まあまあ、会うなりそう突付き合うな、お前らは。
とにかく、司の帰還に乾杯しようぜ。」

そして、私達は各々違う名前の液体を手に取り、空高く乾杯した。

楽しい時間はあっという間に過ぎ行くもの。

F3はまだまだ話足りない様子だったので、私だけ先に帰るとチェアから下りると、それからあの三人は
ホントにおかしかった・・・クスッ。
思い出しただけでも、笑える。

三人ともが、自分の会社のハイヤーを使うように言い張り、一歩も引こうとしなかったからだ。

あれは、私をオモチャにして絶対に遊んでたな。

そんなF3を席から離れて見ていると、さっきまで、自分がこんなに楽しく幸せな絵の中に座っていたのかと信じられない思いがして、ならば、ずっとずっと気付かないままその中に居たかったと思った。


四つ並んだバー・チェアが一つ空いて、ライトに照らせれ、ドラマチックな姿を見せる。

本来あそこには、黒い革ジャンと正絹の着物どちらも着こなす色男、腹が立つほど引き寄せられて仕方ない私の一番会いたい男がクールに座っていたはずなのに、金沢なんかに行っちゃって、その絵がいつまでも完成できないことに腹が立った。

もし、ここに居てくれたら、今日という日が最高に忘れられない嬉しい日になっていたはずなのに。

そこに居るべき人物は、幾重にもその残像を寄越しては、つかめそうでつかめなくて、泡のように消えていく。

不覚にもまた鼻の奥がツンとしてくる。

ヤバイ、歳のせいかな、私ってすぐ泣くヤツじゃなかったはずだよ。



クスッ、
三人はペーパー・ナプキンの上で阿弥陀くじを始める。

本当にけったいな男性(ヒト)達だ・・・。

皆、とっても楽しそうに笑っていた。

私はボーッと、どこか遠くの絵を見ている気がした。

そして、突っ立ったまま、視界が揺れていくのをどうしても止められなかった。

つづく

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