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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 53
shinnjiteru53

53.

間違ってないよね ・・・ サン イチ ロク 。

何度鳴らしても、反応なし。
留守なのか、それとも、会いたくないという意思表示なのか?

呼び出し続けて20分が経過。

ふんばれ、つくし!と自分を鼓舞して、あと30分待ってみて再度押してみることにする。

そんな私をマンションの住人が訝しげに見ながら通り過ぎて行く。
友人のお見舞いに来たのですが・・・とでも言えば、若い女の待ちぼうけに同情し、もしかすると中へ入れてくれる親切な人が居るかもしれない。

けれど、目的は西門さんと対峙して話をすること、そんなズルをすれば、最初の立会いから私は不利になりそう。
ショートカットは考えず、待つことにする。

午前保育が終わった幼稚園児が青い長靴をパコパコさせながら通り過ぎる。
その青みがかった白眼が印象的な男の子、吸いついて来るような視線に小さく微笑み返した時だった。

ふと影を感じ、振り返ると、待ち人が視界に入る。
ようやく会えた。

けれど、一人ではなく、車椅子に乗っている西門さんの側には、肩までの茶髪を内巻きにした若い女性、二人して一緒に自動ドアを抜けて来るところだった。

瞬時に、私を凝視する西門さんの視線と絡み合い、歓迎しない表情が私の勢いを急凍させ、挨拶の一言まで凍らせる。


「待ち伏せか。」

「え?」

「何しに来た?」

「あの・・、会いに・・・。」


重い空気が二人の合間を白々と漂う。

外の空気より冷たい瞳で睨まれて、全身が緊張で強張った。
雪はこの区切られたスペースで温められ蒸気に変わり、ゴムの匂いと混じりあい、ひどい湿気の塊りとなり襲ってくる。


「あの・・、西門さん、話があるの。」

その言葉に片方の眉を少し上げ反応する西門さんは、不快さを露わにひどく無関心な表情で、西門さんに対して初めて怯えのようなものを感じた。

「ハアー、牧野、俺のことは放っておいてくれないか。
すぐに駅に戻って、東京行きの切符を買って、早く自分の生活に戻れ。
ハッキリ言って、来られても迷惑なだけだから。」

「・・・!・」

「瑠璃ちゃん、行こう。
悪いけど、またあのおいしいやつ作ってよ。」

「え?
もちろん。
気に入っていただけていたら、嬉しい。」

「じゃあ、牧野、そういうわけで。」


そう言って、ホイールを自分で回して、ボードになにやら打ち込み、振り返ることもなくドアの向こうへ入っていった。

瑠璃ちゃんという女性は、私に一礼した後、小走りで車椅子に追いつきそっと車椅子に手を添えた。

私は、その場で呆然と立ちつくす。



最初から受け入れてもらおうなんて虫のいい事は考えてなかったけど、あんな可愛いガール・フレンドと一緒に楽しくやってるなんて、大きな誤算だった。

目にした状況を整理する間もなく、あの拒絶を前に言葉は愚か、思考も回らず完敗だ。

「総二郎を信じて待ちましょう」と言った西門さんのお母様はやはり正しかったのだろうか、西門さんには西門さんの考えがあって、私が出る幕などどこにも無く、本当に邪魔しに来ただけなのかもしれない。

大切な落し物が見つからずガックリ肩を落としながら家路に向かう苦学生のように、フラリフラリと駅の方へ向かって歩いた。

「総二郎さん、先程の女性、よろしかったんですか?」

「ああ。」

「お友達?」

「・・・。」

「ごめんなさい、余計なことを聞いちゃいました。
スモーク・サーモンのサンドウィッチでいいんですよね?
西門さんからのリクエストなんて、初めてで嬉しい。
こんな時間だからお腹すいてるはずですよね、今すぐに。」

キッチンへ向かう彼女の身体から、甘い香りが漂ってきた。

「瑠璃ちゃん、飯はいいからこっちへ。」

楚々とした素振りでやってきた女の左腕を取り、手の甲を優しく撫でて気を引いた。

「あのさ、ここで。」

首をかしげて意味ありげな視線を向けると、想像通り戸惑いがちにうつむく女。
そこで、甘えたように軽く一言添えると良いわけだ。


「脱いでくれる?」

新世界へ連れて行くのにそっと手を差し伸べる。

大事なタイミングを計らずとも、脳から湧き出る本能を形良く整え、言葉にするだけで上手く行く。

ポッと顔を赤らめる少女を脱したばかりの女は愛らしい。
若草色の頼りなげな茎の先に、淡い桃色の花弁を数枚グルーでくっ付けたばかりみたいだと思う。

胸のトキメキを隠しもせず、俺の言う通りセーターに手をかけ、可憐に恥じらいながら一枚一枚剥ぎ取っていく様を眺める。

じっと見つめながら、滑らかな口調で誘うと、こんな出来損ないの身体でも有効らしく、それなら使わせてもらうのが今の俺の道理だ。

尖りのないラインと滑らかな皮膚は男を癒すために創られた訳ではないにしても、全てをそっくり包み込み、醜い感情をも忘れさせてくれる有難い存在であり、俺は少しでも早くその甘い楽園に逃げ込みたくて、ブラの谷間へ顔を埋めた。

そして、手に馴染んだ松葉杖を使い、ベッドへ誘導した後、着ていたセーターをさっと脱いで、その柔らかく甘い塊りに覆い被さった。

いつの間にか眠っていた。
またあの嫌な夢を見たせいで、全身倦怠感に襲われている。



暗闇を歩いている。
すると、突如現れる黒より深い闇色の大きな穴から不気味な透明の手が2本伸びてきて、俺の足首にサヤっと触れる。

ヒヤリとした感触に驚き、正体を認識して身震いし、逃れようと全力で駆け出すが、決して振り切ることができない己の影のようにピタリと側から離れない。

そして、大きな黒い穴がポッカリ口をあけ、その深淵が俺を飲み込もうとあざ笑うように待ち構えるイメージが
ありありと脳裏に浮かび、底なしの恐怖が背後から忍び寄る。

もっと急げと脳が命令する。

もっと、もっと。

さらに速度を上げなければと、力を絞り、足を掻き、がむしゃらに走る。

焦って汗が噴出し、息が上がって苦しくて、ふと気付いて愕然とするのだ。
- 左脚が動いていないことに -。

『もう止めてくれ。』

『お願いだから、消えてくれ。』

何度も心の中で声が嗄れるまで叫び、救いを請う。

ハアハアと苦しい息遣いで、生々しい記憶と共に目覚めては、どっと疲労を感じて、その果て無き闇の深さに虚脱する。

俺は、のっそりベッドから起き出してキッチンへ行った。
ダイニング・テーブルには、メモとリクエストしたスモーク・サーモン・サンドウィッチがラップをかけられ残されていた。

俺の身の回りの世話係として現れたのが瑠璃ちゃんだった。
そして、俺たちが男女の間柄になったのはクリスマスイブの夜。

うなされている俺に抱きついてきた瑠璃ちゃんは生娘だったが、それは自然な流れで、もつれ合うようにベッドに落ちた。

その夜は、お互いの身体を求め合う事が必要な夜で、瑠璃ちゃんからは感謝の言葉までもらった。

俺は一進一退の治療への苛立ちと将来への不安、そして闇への恐怖にいっぺんに囚われて、立ち行かないほどだった、その上、牧野に抱いた感情を封印し、忘れ去る努力まで課せられて、ひどく過酷で孤独な戦いに疲れが出始めていた。

瑠璃ちゃんも、内面に複雑な事情を抱えている女の子で、そんな自分を壊してくれる誰かを捜し求めていた。


少なくとも俺はただの遊びのつもりでその唇に自らの唇を寄せた。

生理的現象を処理した懐かしい夜の再燃かと思った一方、男を知らなかった清らかな身体は牧野を忘れようとする俺の心を奇妙に捉え続け、夢見る媚薬を与えてくれる救いの女神で有り続けている。

ズルイ男に成り下がったとしても、その薬を自分から断つ勇気もなく、こうしてぶら下がっているわけだ。

西門流の血統を守るために俺自身が考え抜いて生まれた決心。
それは正しかったと今でも揺るがない。

けれども、その選択の結果、将来目にしていくだろう光景に耐える自信もなく、逃げるように金沢へやって来た。

ここで何度、昔を懐かしんだことだろう。

F4の一員として送ってきた日々は、今となっては泡沫の夢のごとし。
宿命に愚痴りながらも女遊びに浮かれてたあれは、神の悪戯だったのか。

約束された未来は一瞬で空中分解し、残ったのは無念と失望と闇への恐怖。

茶道の道が閉ざされて、水の減った水槽を泳ぐ魚のように窒息感に包まれた。

宿命だと腐ったこともあったくせに、こうなってみて、どれだけ茶道を愛していたのか痛感しても遅過ぎるよな。

今まであった自信はこうも儚く粉々に砕けてしまい、小さな欠片が虚しく光る。
生きていく目標は?
確固たるビジョンが見出せず、八方塞がりの塀の中で天井をじっと見つめるだけだった。

牧野と周を応援していると口では言ってるくせに、一方では、自分の哀れな姿との対比に耐えられず、あいつらに笑顔を向けられるほど、俺は人間が出来ていないことにも苦しんだ。

俺には実家に身をおきながら、見物することなど到底無理な芸当だった。


「でもそれは、捨て鉢になってないってことだから・・・、」と言ってくれた類の言葉を借りると、俺はなんとかしようともがいていたわけで、厄介に感じることも多かったプライドこそが、俺の原動力になっていると気付けただけが見っけもんだったか・・・。

性分だから付き合うしかない。

明るく言えば、未来への希望を胸にここへ来た。

『再生の一歩をここで踏み出そう。』

そう心に決めていたはずなのに、俺は一体ここで何をやっているのか。

牧野を冷たくあしらって、身近な女を抱いた。

やるせない思いが身体をますます重くさせ、冷蔵庫へ歩いて行くのも疲れる。

冷たいミネラル・ウォーターを取り出し、そのまま口につけ、横からこぼれるのも気にせずガブガブ飲んで、ようやく少し末端神経が機能してくる気がする。

牧野は、少し痩せていたのではないか?

ちゃんと稽古も続けているのだろうか?

周と仲良くやってくれているのか?

シャワーを浴び、濡れた髪のままサンドウィッチを頬張った。

なぜか牧野の気配を感じた。
不思議だったが、願望のようにそう感じた。

俺はインターホンのボタンを押して、入り口の様子をモニターに映し、思わずその映像に小さな息を漏らす。

濡れた雀の様に、震えながら身を小さくしているヤツが居る。
ドンピシャだ。

驚くよりなぜかどこかで安堵しながら、とっさに松葉杖を手にしたが、それを置いて携帯を手に取る。

Trururururuururururururururu・・・・・・

「牧野か?」

「ゴメン。西門さん・・・私・・・。」

「いいから、上がって来い!」

つづく

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