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信じてる

西門総二郎x牧野つくし

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信じてる 57
shinnjiteru57

57.

アメリカ発の金融危機を発端に、世界経済の激震は広がる一方、まさかの老舗大手金融機関破綻など、海を渡り欧州まで派生している憂鬱なニュースが途絶えない今日この頃。

比較的、打撃が少なく余力ある我国日本は今こそ商機とばかりに、金融商品の売り込みと企業買収に本腰を入れ始めていると教えてくれたのは、企業家として商機を狙っている類だった。

類の誕生日祝いを渡したくて、久しぶりに青山のレストランで向かい合い食事をした時だ。

「こういう時には、アラブの本当の王子さま達からお金もらわないとね・・・。」

なんてふわりと言って、日焼けした肌に白い歯からさわやかな微笑みをもらす。

「やっぱり類は生まれながらにして企業家の血筋引いていて、それが長い間、青虫みたいにじっとしてたけどさ、ついにサナギから孵って動き出したんだよ。
誰に教えられたのでもなく、本能のまま空に向かって羽ばたいていくんだねぇ。
美味しい蜜を求めてね。」

「オイルマネーを吸いに飛んでくってこと?」

「ええ?いやいやそんな露骨に・・・、お金その物じゃなくて、そういうお仕事全部ひっくるめてさ。」

「俺、確かに・・・血が騒ぐよ。
うちもインフラ事業やってるし、存在感を示すチャンスだからね。」

「・・・!。」

「牧野、日本は輸入原油の9割近く中東から輸入してるの知ってるでしょ?
もう金を払えば資源を売ってもらえる時代じゃない。
お互い持ちつ持たれつの関係を築く、離れられないがんじがらめの関係を築く。
幸い、日本には技術力と勤勉な国民性があるからね。
日本にとって安定した資源確保に繋がる事業が俺の責務だと思ってるんだ。
しばらく日本にいれると思っていたのに、・・・残念だけど、またしばらく向こうの生活かな。」



長い付き合いの中、仕事を語る類は珍しく、しかもその内容に驚いた。

鷹(たか)のように抜かりなく、隼(はやぶさ)のようにすごい速さで世界の流れをキャッチする優秀なビジネスマンが頭に描いているのは、国レベルの話。

他人(ヒト)のことなんかどうでもいいって言ってた頃の面影はどこにもなくて、経営者としての責任と
日本国の将来まで見据えていて、心底頼もしく見える。

仕事にかけては緻密な計算のもと冷静に動いている人であり、その人がいよいよエネルギッシュに静かな炎を燃やす言葉に返事すら忘れ、また一回り大きく精悍さを滲ませる類を、目を見開いて見つめていた。


「牧野、どした?」

「昔は非常階段で眠ってばっかりだったのに、すごいな~って思って。
あの頃、仕事の出来る類なんて想像も出来なかったもん。
あっ、ごめん。
私の想像力が貧弱だったせいでもあるね。」

「でも、牧野が蜜でいてくれたら、俺はそこから離れないと思うよ。」



はあ???なんじゃそれ?

冗談でも、感動してる時に言わないで。

しかも、お願いだからそうやって優しく微笑みながら言うのは止めて欲しい。
ドキリとするセリフをその顔で言われたら、足が浮いてきちゃいそうだよ///。


「クスッ、牧野には迷惑か・・・。」

「迷惑なんて//。」

「ねえ、総二郎、こっちに帰ってくる気なさそう?」

「え?
ああ~、西門さんは、何も不自由ないって言ってたからね。」

「牧野も一緒に住んじゃえば?交通費、バカにならないでしょ。」

「バ・バカ言わないでよ。
私には仕事もあるし、第一、一緒に住むなんて・・・。」


西門さんと居るだけで、妊娠しちゃうよ。
・・・妊娠しちゃうよ。
・・・妊娠しちゃうよ。


続くセリフが嘘くさく聞こえる状況になるなんて思ってもいなくて、最後まで言い切れなかった。

あれから一度、金沢に遊びに行った。

携帯電話に一方的に、“行くからよろしく!”と電話して、そしたら、西門さんは諦めたように戸をあけてくれた。

西門さんから声をかけてくる事はなかったけれど、私に帰れ!とはもう言わなかったし、持参したお弁当は静かに食べてくれた。

私が話すことに小さく笑ったり応答してくれたりもして、そんな時、自分の図々しさを忘れそうになったし、一緒に居れることが嬉しくて、じんわり幸せも感じた。

その夜は泊まり、結局、静かになったリビングで一人瞼を閉じた次第だ。



薄暗い部屋のソファーで横になりながら、寝付けず目を開け色々考えてた。

テーブル脇に置かれたお湯呑みと黄色い花を視線の先に小さく捉えながら、闇の中で目を凝らしていると、「俺と付き合わない?」って聞いてきた黒皮ジャン姿の西門さんが記憶の中から飛び出してきた。

一年も経たないのに、その声は懐かしく、なぜかエコーがかかって遠かった。
けれど、銀色に光る西門さんの瞳はあいかわらず妖しくて、心がキュルルと揺れる。


あれから事態は大きく変わり、西門さんをめぐる環境は反転してしまったといってもいいかもしれない。

「まさか、お前、俺が前に付き合ってくれって言ったこと本気にしてた?
やっぱり、お前は呆れるくらいチョロイよな。」

事故後、そう冷たく言う西門さんの背中が痛々しくて、あの頃は何もしてあげられない事が歯がゆくて、胸が破けるかと思っていたんだ。

それが友情や同情でなく、愛情だったと気付いた私は、あのお湯呑みと黄色い花にすがり付いてもあの真摯な瞳を信じてみたいと思った。
そして、その願望はそこから大きく育っていくことになる。

ガンバレ!と優しい囁きと慰めと勇気を小さな花からもらった夜だった。

「類が忙しいってことは、道明寺も忙しいだろうね。またNYに逆戻りかな?」

「さあ、司はどうだろう。
NYには司の母ちゃんもいるし、日本でもやる事いっぱいでしょ。」

「またさ、皆で集まれる日がきたらいいな。
皆それぞれ偉くなって忙しくなっちゃったけど、いつかは集まれるよね?」

「もちろん。総二郎にも会いたいし。」

「皆とだったら、きっと昔に戻ったみたいに話せるよね。」


優紀・桜子・滋さん・私・西門さん・道明寺・類・美作さん。

西門さんを真ん中にして皆が笑ってる和やかな構図が浮かぶ。
それが夢で終わらず、絶対そうなるように心をこめて願をかけた。

そして、東京は再び桜の見頃を迎えた。

春の花見茶会・炉塞ぎや初風炉などの行事に忙しく、周くんのサポート役として一生懸命動いているうちに、
春爛漫の二ヶ月はゆっくり愛でる間もなくあっという間に過ぎていった。


それでも、有給をやり繰りして月一ペースで金沢通いは続けており、嬉しいことに西門さんと顔を合わせやすくなった気がする。
けれど、あいかわらず、瑠璃ちゃんの痕跡は男所帯に色濃く残っていた。

遠いので、一晩宿を借り、友人として一緒に過ごすパターンに落ち着き始めて、今回もそのつもりで乗り込んだ。

汽車から見る北陸沿線の眺望は、広大な広葉樹畑。
露に濡れ、辺り一面黄緑色に光っている。

瑞々しい景色は、バタバタとした日常生活を脱ぎ捨てて、気持ちよく西門さんに会いに行くのに十分な効果を与えてくれた。

今回、持参したのは手作りのお弁当とボードゲーム等、二人で過ごす時間を楽しめるのを色々考えてのことだ。

金沢駅構内を歩いていると、多くの若いカップルとすれ違う。
その中に瑠璃ちゃんがいたと気付くのに時間がかかったのは、彼女達がごく普通の幸せそうなカップルで、仲良さそうだったから。

瑠璃ちゃんはメガネをかけたスポーツマンタイプのガッシリした青年の二の腕に、甘えるように頭をくっつけて笑っている。

楽しそうに青年を見上げ笑う横顔は、どこから見ても大好きな彼とのデート中ってところだろう。


こ・これは・・・、瑠璃ちゃんのデート現場目撃?
もしや、西門さんが二股をかけられているということ?

もしかして、瑠璃ちゃんって人は西門さん顔負けの遊び人なの?
あんな純情そうな可愛い顔して・・・と疑問がグルグルめぐる。

このことを西門さんに告るべきか、でも、そんなの聞いたら男としてどうなのよ。

頭の中でバトル寸劇が始まって、逆上する瑠璃ちゃんが居たり、苦悩する西門さんが居たり、だから私にしておきなさい!とせせら笑う自分を横からなじる自分が居たり。


ドキドキしながら、西門さんのマンションにたどり着いた。

「こんちわ~!厚かましくやって来ましたよ~。」

西門さんはもう松葉杖に頼らず過ごしていて、びっこを引きながら迎え出てくれた。

「牧野、荷物はこの部屋な。」

指差す部屋を覗いてみると、窓際に木目チェスト、窓にはパステルグリーンのブラインドウ、そして同系色のカバーがかけられたクィーンサイズ・ベッドが置かれている。

「え?まさか、私の為に用意してくれたの?」

「どのみちゲスト・ルーム用だから。」

西門さんはポケットに手をかけ、首をかしげながらサラリと言う。

「ソファーでもよかったのに・・・。」

「俺が困るの。一応女だろ?」

「え?」

ビックリして見つめていると、私のリアクションが意外だったらしく、え?っという表情で見返された。

「女扱いされてたんだ・・・私。」

呆れたような溜息をつく目の前の男に、なんか悪いことを言ってしまった気がする。

「あ・ありがとう。ごめんね、気を遣わせて。」

感謝しながら謝って、なんだかややこしい変な顔だったかもしれない。

「バーカ。」


は?

そして、なんだか笑っている?
ポケットに手をつっこんだまま、リビングに向かう背中はなんだか笑いを堪えているみたいで、とっても懐かしい後姿だった。


バーカ・・・。

そんな軽口がこんなに私を喜ばせてるのに、気づいてるのかな、西門さん。

嬉しくて、なんだか気持ちがいっぱいいっぱいで、口からこぼれてしまいそうになる。


「西門さん!ありがとう~!」


手を口の横に当て、声を張り上げてみた。

つづく



注)インフラ事業について・・・インフラとは基盤・下部構造などの意味を持つinfrastructureの英単語の略。一般的には上下水道や道路などの社会基盤のことで、生活に欠かせない部分を作る事業のこと。一部Wikipediaより引用
現在、日本の総合商社は中東各国から淡水化・発電・鉄道事業・その他の受注を受けるなどしており、投資ファンド作りにも積極的に動いていると新聞に掲載されております。

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